初代・人相の良い男。強烈な輝きと儚さを放っていた人生初の推し

歴代の好きな男の顔に共通点はあまりない。特にイケメンが好きというわけでもない。ただ一つ譲れないポイントがある。それは「人相の良さ」だ。
そのルーツは人生初の推しに遡る。
新宿の居酒屋で友達と飲んでいた。なぜかぶり大根がいつも品切れで店員さんは少し無愛想だが、魚がうまくて安いのでつい足が向いてしまうお気に入りの店だ。みんなでお造りをつついていると不意に友達の携帯が通知で光った。
画面をみて友達が告げた言葉に体感1秒ほど時が止まった。
小学生の頃から好きだった国民的アイドルが、次回のツアーをもって活動終了するというニュースだった。
推しという言葉もまだなかった時代に、輝いていた私の光(当時は担当、という言葉があったが今はあまり好きな言葉ではないので使わない)。
お小遣いの許す限りCDや雑誌、グッズなどを買いまわった。今はアイドルのWebコンテンツが沢山あるが、当時映像コンテンツはテレビかせいぜいコンサートDVDくらいだった。そのためテレビの番組表で彼らの出演する番組はどんなものでも全てチェックして録画するのが日々のルーティンになっていた。
コンサートに行けたのは数回。チケットが外れても、グッズだけでも欲しくて慣れない足で東京へ行き炎天下の中5時間以上並んだ事もあった。
高校に入ってから、少しずつ彼らへの熱は落ち着いていった。代わりに学校行事や、友情、恋愛、受験など自分の人生の事に精一杯になっていった。それでも、カラオケで友達と彼らの曲を熱唱したり、テレビをつけて彼らが映っていると自然と笑顔になるような、そんな存在だった。
そしてその中でもひときわ好きなメンバーは、もう上書きされることのない私の人生初の推しだ。
笑顔が太陽のように明るく温かい、チームのムードメーカー的存在だった。
ちょうど少し前、私は知人から彼らのコンサートDVDを借りていた。まだデビューして5年目ほどの、今となってはお宝映像と呼べるくらいの代物だ。その頃の彼らは22歳前後と若く、当時はお兄さんだったが今の私はそれよりもだいぶ歳をとっている。
再生ボタンを押すと、そこには強烈な輝きと儚さがあった。
驚くほど華奢な身体からどこか野心を感じさせる全身全霊のパフォーマンス。簡単にいうと、バチバチに格好つけている。そこがなんだか懐かしいような愛おしいような、変なくすぐったさを覚える。「国民的アイドル」と呼ばれるようになるのはさらに5年以上後のことだ。
その中で推しは、ひときわ大きな動きで全力で踊り、誰よりも汗だくになりながらその目の奥はキラキラと輝いている。すらりと長い手足としなやかな動きは、当時の華奢さも相まって、ヘルシーなのにどこか艶かしい。
表情管理という言葉を昨今よく聞くが、そういったものではなく「とにかくいま、楽しいんだ!」といわんばかり、口を開けた大型犬のような笑顔でステージを走り回る様に心を鷲掴みにされる。ファンに誰よりも遠くまで手を振ろうとする姿はわんぱく少年みたいだ。
なぜ、この人が好きだったのかはっきりと思い出した。
私はそんな彼の顔、特に笑顔が好きだった。
他のメンバーももちろんかっこよく、なぜこの顔が好きなのかと問われると当時はうまく答えられなかった。でもある時ふと、気づいたのだ。
人相だ!と。
今も、好きなタイプを聞かれて「人相の良い人」と答えてしまう時、私はいつもうっすら彼の顔が思い浮かぶ。
人相が良い・悪いというのは生まれつきの善人顔・悪人顔みたいなものだと思っていたが多分そうではない。
生き様が顔に出るのだ。
彼の今の姿をみると先ほどのコンサートの頃に比べて、チャームポイントの目尻の皺は濃くなり身体はがっちりとして相応に年齢を感じさせる。それでも目の奥はまだキラキラと輝いている。
元オタクにはそう見えるだけかもしれない。いや、多分絶対に、輝いている。
それは彼が、私の知る限りどんな仕事も真摯に取り組み、自分の魅力をブレさせる事なく磨き続けた賜物だと思う。音楽活動以外にも様々な活動を忙しくこなしていたが、どんな仕事にも彼の良いところが滲み出ていた。自らが楽しさを表現し、周りに伝染させる力は、誰にも真似する事ができない。そんな生き様が、今も彼の目を輝かせているのだと思う。単なる顔の造形を超えたそこはかとない魅力を作り上げているのだ。
こういう人を好きでいられた事は、私の財産の一つだと思っている。
だから私はこれからも、「人相の良い人」を好きになるだろう。そこには誤魔化しきれない生き様が出ると思うから。
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