一目惚れ、だった。バス停で初めてあの人を見たとき、なぜか目が離せなかった。思い返すと、あの人は、特別にかっこよかったわけでも、目立っていたわけでもなかった。それなのに、目が離せない、無性に気になると思ったのは、見た目以外の何かを、一目で感じ取っていたのだと思う。つまりあれは、正真正銘の一目惚れだった。

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あの人と知り合って、初めて一緒に帰ったとき、私が一目で感じ取ったものは、間違いじゃなかったんだと感じた。隣にいるときのなんともいえない安心感。初対面なのにも関わらず、やけに話が合った。初めて会ったのに、初めてじゃないような、もう何年も前から知っていたような感覚。一目惚れって運命なんだと思う。……と、やけにロマンチックな語りで始まった私の一目惚れエピソードですが、ここから、私の一目惚れから始まった恋は、最悪の終わりを迎えるのです。

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大学周辺のお散歩と、カラオケのデートを重ね、定番の3回目、美術館デートで告白をされ、無事、一目惚れしたあの人と付き合うことになりました。お付き合いを初めて、私はやっぱり一目惚れって運命なんだと強く感じていました。

私もあの人も読書と美術館巡りが趣味で、毎週日曜日のデートでは、美術館か本屋さんによく行きました。美術館に行けば、好きだと感じる作品が一緒、本屋さんに行けば、気になっている本が一緒ということがよくありました。あの人は私にとって、彼氏としてだけではなく、今まで出会ってきた人の中で一番話が合う人でした。

さらにあの人は、連絡も頻繁にしてくれるタイプでしたし、女友達もほとんどといっていいほどおらず、不安要素の一切ない彼氏でした。そんなあの人と付き合って、本当に毎日楽しく過ごしていました。が、そんなあの人の様子がおかしくなったのは、付き合い始めて半年を目前にしたころでした。

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あの日、あの人は終始そわそわしていました。明らかに様子がおかしいので問い質してみると、少し距離を置きたいとのこと。私は最初、まさか振られるわけはないと、謎の自信を持っていました。しかし、距離をおいて1ヶ月近くたったとき、話したいことがある、と言われたときには、もうこれは別れることになるだろうな、と思いました。

あの人は案の定、別れてほしいと言ってきました。他に好きな人ができたのか、と聞くと、そんな最低なことするわけない、と言いながらも、理由を聞くとはぐらかされ、よくわからないまま、あの人と別れることになりました。別れてすぐは、人生で一番落ち込んでいた私ですが、だんだん傷も治りかけ、あの人のことも忘れかけていたとき、あの人に新しい彼女がいるということが分かりました。それだけでもなかなかの衝撃だったのですが、それだけではなく、なんと、私とあの人が別れた次の日に付き合い始めていたのです。

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私の一目惚れから始まった恋の話はここで終わりです。こんな最低な終わり方をしたのですが、一目惚れから始まる恋がありかなしか、と聞かれると、私はありだと思っています。終わり方は最悪でしたし、あの人とは、別れてから一切関わりもなく、今現在も気まずいままです。

しかし、私があの人を好きになったことは、いいことだったと今ではそう思えます。もうあんな辛い思いはしたくないですが、あの人に一目惚れしたときみたいに、また人を本気で好きになれたらいいなと思います。