社会人1年目の春、結婚願望すらなかった私は恋をした。

私はどちらかというと、高校生の頃から同世代よりも大人びて見られた。
だから、中身も見た目に追いつかないといけないという気持ちで、必死になって大人な自分を演じてきた。幸い、幼い頃からドラマを見ることが好きで、画面に映る大好きな女優さんの演技を真似して、それなりに演じきれていた。

おかげで大人の偽りは他人と関わる上では習慣のようになっていた。正直、幼いなりに無邪気な自分で生きていたいとも思っていたけど、長年染みついた癖はとれなかった。

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彼と出会ったのは社会人になってすぐのこと。出会ったときは全く意識すらしなかったけれど、数人での飲み会で隣の席になった。

10歳年上の彼は、私よりも少年のように楽しんでいた。なんなら、私の方が年上かと思えるくらい無邪気だった。そのとき、この人なら偽りの私を解放してくれるかも、そう思った。理由はない。けれど、私の勘はそう思った。
連絡先を交換して、何気ないやり取りを繰り返した。LINEが苦手な私だったが、会話を続けたくて、彼が返信してくれそうなメッセージを送った。

連絡を取り始めて1ヶ月が過ぎた頃、2人でご飯に行くことになった。嬉しくて、でもどうしたらいいか分からなかった。私は恋愛の仕方が分からない。そうこうしているうちに、彼は気になっているカフェを提案してくれた。
当日、彼はいつものような少年の笑顔で仕事終わりの私を待ってくれていた。恥ずかしくて、でも嬉しくて、小走りで駆け寄った。カフェではおしゃれなワインを飲んでみたりした。味は緊張して分からなかった。けど、楽しかったからいいやと思った。
彼は私にたくさん質問をしてきた。過去についても未来についても。私は全て嘘偽りなく答えた。そこで、同じような価値観を持っていることが分かって、一気に距離が縮まった。それから5回目のデートで告白された。22歳の冬、初めて心から好きと思える人と付き合った。

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デートは彼が私の行きたいお店に連れて行ってくれた。どこが良いか分からなくて、SNSで調べた少し大人なお店を提案していた。

ある時、彼は珍しく学生が行くようなチェーン店を提案してきた。急なことで驚いたけど、彼とならどこでも良かった。お店で、「こういう所、好きだよ」と彼は無邪気な笑顔で言った。ばれていた。私が背伸びをしてお店を選んでいたことが。

その発言にきょとんとする私の頭を、彼は垂れ目を細めてそっと優しくなでてくれた。その手は母が幼い頃になでてくれた手と同じように優しくて温かかった。

それから私はチェーンのお店を選ぶようになった。幼少期から、妹がいるからお姉ちゃんらしくいないといけない、姉でいることが義務のように生きてきた。そんな私の気持ちを彼は分かってくれていた。

普段は同世代の間で流行っているご飯屋さんに行き、月に1回、いつものご褒美として背伸びしたご飯を食べに行った。前までは株や投資の話をしていたけれど、かわいい動物の動画を見たり、TikTokを見たり、そんな休日を過ごした。「付き合う前よりも、良く笑うようになったね」彼はそう言った。

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背伸びをしていたことで、私は人生においての新たな幸せを見つけた。お金では得られない幸せを見つけた。ありのままの自分らしく生きられることを学んだ。

人と生きることは自分をより苦しめると思って生きてきたけれど、彼といた方が、私は自分らしく生きられることが分かった。背伸びをして見られる世界は、歳を重ねれば必ず見える世界だから、生き急がずのんびり、彼と何気ない日常を今日も生きる。

来週のご褒美Day、何食べたい?と聞かれた。私は迷わず、オムライス!と答えた。
ご飯の後はスーパーでアイスをデザートに食べる。