卒業論文提出の前夜、24時間使える校内自習室で最後の追い込み

私は小学生の頃から宿題をギリギリまでやらない子供だった。もちろん長期休みの初日や2日目は、無限にも思える残りの休みを存分に謳歌するため、計画的にやるぞ!と意気込んだ。むしろ出来るだけ早く終わらせてやる!という、気持ちだけは一丁前で、宿題のページをパラパラとめくる。改めて目を通すと、これまた無限にも思える量の宿題たちに怖気付くというのがいつもの流れだった。
早くやらなきゃと思いながらも、結局は早々に離脱してしまい、遊ぶことに没頭した。
「宿題やった?」「まだ全然」「私はこれくらいやったよ」「○○は終わった」「え〜、早いね!」
そんな会話を友人たちと交わしながら、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。始業式まであと、10日、1週間。焦る気持ちと、面倒臭い気持ちと、なんとかなるだろうという謎の自信。まあ、大抵苦労するのだけど。
そして残すところ数日、やっと重い腰を上げて取り掛かる。難易度とかそういった話以前に、残された時間に対しての宿題の量が多すぎる。多少のズルはご愛嬌。これは本当に自分のためになっているのか?という疑問を掻き消すように、必死に宿題を終わらせていく。たまに親に 協力も仰ぎながら。最終日になっても終わらなくて、夜中まで泣きながらやっていた時もあった。 我ながら計画性が無い子供だった。それでも最終的には、まあ、なんとかなってきたからここに今いるわけで。
そんな性格がすぐに変わることもなく、私はいつもギリギリだ。
でもこれまでの学校の宿題とは違い、大学の卒業論文は卒業がかかっている。重みが違う。
卒業論文は、基本的な書き方等のルールはあるものの、内容は自由だ。自由だからこその難しさがある。自分でテーマを見つけ、仮説を立て、文献を引用して、結論付けなければならない。幸いなことにゼミで定期的に進捗の報告会があり、ゼミ生からは感想、先生からはアドバイスをもらったりする。テーマを設定しても、研究を進める中で、当初思い描いていた筋書きとは違った現状が見えてくることもある。私の場合、テーマ変更はなかったものの、多少の方向転換はあった。
先生に相談しながら、時に実地調査も行く。それでも、最終的な論文の形態には程遠い。
結局、今回も同じだった。
刻一刻と期日が迫ってくる。正解がないだけに、自分でどれだけ納得した論文にできるか、が重要。文章を作ること自体は好きだけど、論文となるとルールに乗っ取った引用が必要だった。引用が重要なことは理解しつつも、慣れるまで苦手意識が消えなかった。しかも、引用に引用を重ねていく論文というものは、段々とこれが誰の文章なのか分からなくなってくる。ほとんど引用じゃないか。少しずつ輪郭が見え始めた論文が、本当に自分のものなのかという違和感が拭えなくなった時もあった。
講義もアルバイトもサークルも全てがフィナーレに向けて慌ただしくなる日々の中で、私が卒業論文を提出できたのは、提出締切日の午前中だった。
提出前夜は、まだ論文のまとめをどうするか決めきれていなくて、ひとり大学校内の24時間使える自習室で最後の追い込み。
自分で設定したテーマだ。一度気持ちが乗ってくると、パソコンに文字を打ち込むスピードも早まった。とりあえず、頭に浮かんでいることを一気に書いてしまおう。ここは最後に調整が必要だなと一部後回しにして。眠気と疲労も、その時ばかりはアドレナリンがその波を堰き止めていた。そして、真っ暗だった空が少しずつ明るんでいくのを、部屋の窓から感じた。
終わった。
宿題のようだけどそれとはまた違った感覚で、自分の書いた文章が論文という形として残ること、決して少なくはない文字数の一種、作品を仕上げたことに充足感を覚えた。
徹夜で迎えた朝。提出窓口が開く時間まで、一旦家に帰りシャワーを浴びて、すっかり明るくなった部屋で、数時間の眠りについた。ある程度の時間で起きて、準備をして、完成した卒業論文を提出した。
自画自賛になってしまうが、論文の仕上がりはそれなりに良くできたと思っている。
今では笑い話だが、実は後から気づいたことに、再考時の目印にと、明らかに浮いている不要な記号や文字を最後に消し忘れたらしかった。無事に卒業できたから良かったものの、い つもギリギリで仕上げようとしてしまう私はこういう凡ミスが多い。
まあ、でもあれほど、課題という観点で言えば、焦りや興奮を持って朝を迎えたのはあの日が初めてではないかなと思う。大学の集大成とも言える卒業論文を書き終えたあの朝は、とても清々しかった。
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