最後に家族旅行に行ったのは、5年以上前になるかもしれない。
高校2年生の冬から受験勉強を始めたため、家族旅行に行くことなど眼中になかった。その後無事に大学生になることはできたが、コロナウイルスの影響によって外出する機会が無くなってしまった。受験、そしてコロナ禍というハプニングが起きたことによって、家族旅行に行こうという思いもすっかり消えてしまった。
でも、最後に家族旅行で行ったお店の味を今でも覚えている。

◎          ◎

そのお店は奈良県にあった。
ちょうど家族と一緒にサイクリングをしながら神社仏閣をしていたときだった。
「大仏も見たし、公園で鹿におせんべいもあげたからご飯食べようか」という父の提案でお昼ご飯を食べる場所を探していた。
しかし、流石観光地…お昼ご飯を食べる時間帯は、どこのお店もウェイティングリストを書かなければ入れない。チェーン店も個人店も人で溢れかえっていた。
お腹がペコペコだった私は自転車を手で押しながら、ご飯屋さんを探すのに疲れ切っていた。
大通りを抜けて細い道に入ると突然人気もなくなり、お店の数も少なくなった。
「ここにお店はないか…」と父が言ったとき、母が「あそこにランチをやっているお店があるよ」と言った。
小さい秘密基地みたいなお店。駐車場もない。辛うじて自転車を停めるスペースがあるぐらいだ。
お腹が減りすぎて我慢できなかった私は「ここにしよう!」と両親に言い、両親もそれに賛同した。

◎          ◎

お店の中は落ち着いた雰囲気で、森の中にあるレストランというイメージだった。店内は広くはなく、テーブル席が2つぐらいしかなかったように思う。
メニューには「ハンバーグがおすすめ」と書いてあり、ランチセットでは飲み物とサラダ、ハンバーグがついて1000円であった。結構お買い得。両親と私はランチセットを頼んだ。
お店の人には「今から作るので20分程度かかります」と言われた。腹ペコの私には20分という時間さえも長く感じたが、両親は「大丈夫ですよ」といった。

20分間待つ間、両親とは観光地の話をしていた。あの場所良かったよねとか、また行きたいよねとか話していたが、ふとお肉の焼ける美味しそうな匂いがした。
美味しそうな匂いが店内を充満し、腹ペコの私にはお預けをくらっているような状態であった。
お肉の焼ける匂いがしてからすぐにハンバーグが出てきた。
お腹の空いていた私はすぐにがっついてハンバーグを食べたが、今まで食べたことのない食感に驚いた。ハンバーグがふわふわするのだ。ふわっふわのお肉に肉汁が溢れ、美味しいデミグラスソースがかかっている。
私は今まで両親が作った料理が世界一美味しいと思っていたが、ハンバーグだけは違う。このお店のハンバーグが一番美味しいと思う。それほどこのお店のハンバーグが印象的な味だったのだ。

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コロナ禍になってから飲食店が潰れていくニュースをたくさん見た。そのニュースを見るたびに私はハラハラしていた。
あのお店の料理を食べることができなくなるのではないかと。
店名を詮索してみると、確かに該当のお店は出てくるが、果たして無事なのだろうか。
この状況が収まった頃にまた、あのハンバーグを食べることができるのを願う。