大学を中退してしまった私には、学歴がなかった。

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高卒と言えばまだ聞こえはいい。それなのに、大学中退となると、途端に"ダメな人"だというレッテルを貼られる気がした。いや、もしかすると、それは自分自身が一番気にしていただけなのかもしれない。それでも、正社員になろうと、もがこうとする度に、その壁にぶち当たった。

早く正社員にならなければ……友達は大学でちゃんと勉強している。高卒の子はちゃんとした職に就いている。親からの小言が痛い。周りの視線が痛い。手早く、正社員という肩書きが欲しかった私は、学歴が関係ない美容業界に飛び込んだ。

けれど、そこは完全なブラック企業だった。どう考えても達成できるはずのないノルマ。知らない人たちとの共同生活。心も身体もすり減ってしまって、逃げるように一ヶ月で辞めた。たったの一ヶ月しか続かなかった。

その後は、フリーターとして働いたり、結婚したり、色々とありながらも、なんだかんだと生きてきた。それでも、どこかでずっと、肩書きが欲しかった。

〜さんの奥さんではなく、私として名乗れる何かが欲しかった。

だから、ライターとして働き始めた。

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書くことは好きだった。体調を崩して、電車に乗ることも出来なくなってしまった私に、在宅ワークはぴったりだと、そう思っていた。華やかな世界だと、思い込んでいた。でも、実際に依頼される仕事は、芸能人のゴシップばかり。

最初は仕方がない。コツコツと書いていけば、報われるはず。それでも……それでも、ずーっと変わらなかった。もらえる報酬はたったの数百円。その数百円で、誰かを傷つける記事を書く……これが本当にやりたかったことなのだろうか……わからなくなった。仕事が続かない。外にも出れないのに、在宅ワークすらできない。記事の数をこなすだけで、心がどんどんすり減っていった。

私は、その仕事を辞めた。失うことは怖かったけれども、それ以上に自分が誰かを傷つける記事を書いていることが怖かった。書きたかったことは、これではない。言葉を紡ぐなら、私は誰かの心を温められるような、そんな人になりたかった。

華やかな世界に見えているものも、飛び込んでみなければ、その中身はわからない。私は、ずーっと肩書きにこだわっていた。そこに価値を見出そうとしていた。見栄だったのかもしれない。胸を張れるものが欲しかった。でも、肩書きにこだわるのも、全部、全部やめた。

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そうしてやっと気づいた。

私はずっと、背伸びしていた。届かないものを掴もうとして、無理をして、疲れて、空っぽになってしまった。でも、あのとき背伸びをしたからこそ、今の私がいる。必死になっていた自分を、今は少しだけ、愛おしく思う。愛おしく思えるようになった。

肩書きがなくても、私はちゃんと、生きている。たまに落ち込んでしまうこともあるけれど、それでも、そう思えるようになったとき、少しだけ、世界が優しくなった気がした。背伸びなんてしなくても良い。ありのままでも、きっと価値があるから。