東京は無関心の街。ここで暮らし続けるのがベストか分からないけれど

東京という街に憧れがあった。地方の都市で生まれ、あまり不便は感じずに育ったが、それでも東京はいっとう特別に思えた。東京で無くても良いのでは、という感覚は実際に住んでみたからこそ分かることだ。何でもあるが、何にもない。そんな街ということ。
就職を機に上京し、一人暮らしを始めた。実を言えば、東京で無くても良かった。実家を出ることが目的で、程よく距離があり、不便のないところを選ぶと東京だった。周りへの説明も楽だった。都会に憧れた若者にも見えるし、実家から離れて頑張る子も装えた。一人暮らしの家に引っ越し、何もない部屋でぼんやりと白い壁を眺めた。この場所で、生きていくのだと。
東京は無関心の街だ。隣人とは顔を合わせたこともない。けれど、その距離感を心地良く感じた。誰々さん家の何とかちゃん、と言われることがない。大きな街は、ひとりひとりを換算せず、居ても居なくてもあまり変わりがない。夢を掲げる、家出する。そんな理由でも、そこに居ることを許してくれる。反対に手を離しても、縋りはしない。何千、何万の、生活が織りなす街。
しかしながら、東京の人や物の多さには辟易する。食事も娯楽もありすぎて、もはや選べない。池袋や新宿などの大きな街で欲しいものを探すのは一苦労だ。ビルからビルへ行き来しても、求めていたものが無かったりする。こういう時は田舎のショッピングモールが恋しい。あそこに行けば、全てが揃っているから。
ところで、私もアラサーと呼ばれる年齢に足を踏み入れた。実家は関西にあり、東京で仕事をして、同じ街に恋人がいる。彼は北海道の出身だが、今のところ戻る気はないという。それなら、私はこのまま暮らしていくのだろうか。まだ知らない場所のような、東京で。
ここには存在しないものがある。家族や友達との思い出だ。こんなに物で溢れているのに、懐かしいと感じることは一つもない。新しさや奇抜さばかり、押し寄せてくる。満員電車からは人間がはみ出しているのに、みんな知らない人だ。雑然とした街は、空虚にも感じられる。
例えばこの先、結婚したり子どもが産まれたりする。転勤等が無い限り、ほとんど永住の土地として、住む場所を考えることになる。関西の地方都市で育った私には、首都圏に家族で暮らす想像がつかない。ひとりで生きるには有難い無関心も、家庭を持つとなると、途端に分からない。子どもは地域で育てるもの、なんてことは昔話なのだろうか。
いつか、彼と一緒に暮らしたいと思っている。けれども、この先のライフステージに関しては、ひとりでは決められないし、強い願望があるわけでもない。実家に戻るつもりも無く、いっそ全く知らない土地に移住したって構わない。どこで生きていくか、というより、誰と一緒に居たいか、が基準になるような気がしている。それがベストかと言われると、まだ迷ってしまうけれど。
もう暫くは、東京を謳歌しようと思う。少しは思い出も増やせるかもしれない。二十代を捧げた街として。
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