「もうちょい」と言いながら塩や醤油を足していく母の脳内を見てみたい

私は食べることが大好きだ。好物はお刺身。最近は白身の美味さに気づいてしまい、鯛、ブリ、ヒラメを好んで食べる。苦手なものはお惣菜。私の祖母と母の手料理が上手すぎるうえに使っている素材が新鮮で良いものだから、お店の味がどうも口に合わない。給食も嫌いで、食べるのはいつも遅かった。理解を示してくれる先生の時はよかったが、そうでない時は地獄だった。
大学の学食も揚げ物ばかりで飽きてしまったので、弁当持参だ。節約にもなるので一石二鳥。朝から弁当作って偉いね、と言われることもあるが、美味しく食べられないから仕方ない。お惣菜に頼れないとなると将来一人暮らしをしたら大変だな〜と思いながら、少しずつ料理の練習をしている。
祖母と母の得意料理をここで紹介させてほしい。祖母の肉団子は玉ねぎがこれでもかというくらいたくさん入っていて柔らかい。というか、柔らかすぎて団子の形をとどめていない。箸でもなかなか掴めないのでスプーンで取り分けて食べるのだが、口の中でとろけて本当に美味しい。幼い頃からこれが肉団子だと思っていたので、市販の丸くて小さい肉団子を初めて見た時はかなり衝撃を受けたことを覚えている。
母の得意料理は餃子だ。キャベツたっぷりなのに肉汁が溢れ出す具が絶品で、いくらでも食べられる。皮に包むのも上手で、私が作ると破れてしまいそうで少ししか包めないのに母の作ったものはたっぷりの具を含んでふっくらしている。母が大好きだった餃子屋さんの味を目指しているらしいが、母曰くまだたどり着けていないという。一度そのお店の餃子を買って食べたが、私は母の餃子の方が好きだった。私の好みがそうなのか、単に食べ慣れているだけなのか。とにかく、母の餃子は美味しい。
美味しい料理を作るにはどうしたらいいのか。料理本を見てもそんなに簡単には作れないよ、と母は言う。その言葉の意味が、実際に料理をしてみて初めて分かった。まず、野菜の切り方が分からない。サイズ感はもちろん、どう切ったら写真の通りの形になるのか。炒めたり茹でたりする時も、加熱の塩梅が分からない。もういいのかな、まだ火通ってないのかな……味見してもよく分からない。
そして最大の難関、味付け。何か違うと思っても何が足りないのかなんて分かるはずない。「もうちょい」と言いながら塩や醤油をこなれた様子で足していく母の脳内が知りたいくらいだ。慣れと経験の大事さを思い知った。
お惣菜がどうやって作られているか知らないが、ひょっとしたら私の舌が母や祖母の微妙な調整が効いた独自の味付けに慣れていることで、お惣菜の味にちょっと違和感を覚えるのかもしれない。ということは、私も本格的に自炊を始める前に習得しなければならないということか……。
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