出会いは突然だった。
旅をしていた時、日本の真裏の異国の地で出会った。

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ドキドキして初の南米に足を踏み入れた私と一年のほとんどを海外で過ごし慣れきっている彼。南米人に囲まれて、不安で帰りたかった私にとって彼の声や存在は暗闇の中に差し込んだ光のようだった。私はみるみるうちに彼に惹かれていった。いや、正直に言うと一目惚れだった。

日本だったら、彼が普通に会える人だったら、友達になれる人だったら、私は急がなかった。でも、ココは日本の裏側。私が彼と過ごすのに与えられた時間はたった1週間だった。

私はこの1週間を後悔する1週間にしたくないという思いが強く、この1週間にできることを全てしてしまいたかった。今思えば、浅はかだった。そう思う。

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気づけば旅なんてどうでも良くなっていた。1週間の中でどれだけの思い出を残せるか、後悔のない1週間を過ごせるかそんなことばっかり考えた。毎日、今日はここまで関係を進展させたいと目標設定までした。日課である日記は毎日彼のことで埋めつくされた。夢中だったし、楽しかった。

最終的な私の目標は身体を重ねることだった。少しずつ距離を縮めながら、彼が受け入れてくれそうか探った。

数日が経った頃、私はいけると確信した。後はそのタイミングを待つだけだった。日数が経過するにつれて徐々に高まっていく欲求と残り時間が減っていくことに対する焦りが私を襲うようになった。

とうとう我慢できなくなったある日、私から彼を誘った。

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ずっと追い続けていた光が目の前にある、私の手の中にある。幸せだった。エアコンのないジメジメしたホテルの中でお互いの汗を感じながら一夜と過ごした。日中の彼は、海外の街を自分の庭のように歩き大人っぽく見えていたのに、夜の彼は、私の周りの同級生と変わらない”男”だった。欲求に従って、何回も繰り返し、疲れ果てて寝てしまった。翌朝、起きた時には互いの汗が密着し合っていたからか、汗疹ができていた。

最初で最後。そう思っていたのに、その後も何回かする機会があった。元々セフレを作る人間であったから、1回で終わらないことはむしろ嬉しかった。残された2日間、時間の許す限り行為をして、私たちは別れた。

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時は過ぎ、私は日本に帰った。旅の記憶は徐々に薄れつつあったけど、彼との夜を思い出すともう一度したいと思った。そんな私に彼と再会する機会が訪れた。

彼にとっては、海外の地で会えばすぐ出来る人というのはとても都合が良いんだろうと思う。”都合が良い女”は慣れているし、そんな関係をしてきた人は過去に何人もいた。正直、私が好きだった彼ともう一度できるなら、なんでもよかった。

あの夜を思ってもう一度彼と身体を重ねた。でも、私の目の前にいる、手の中にいる彼は私が好きだった彼ではなかった。例え彼の目の前にいる私が”都合の良い女”でも、あの時にはあった彼の気遣う心や優しい瞳や温もりは消え失せていた。目の前にいる彼は、ただ私を”性欲処理の穴”としてしか見ていない欲の塊。

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悲しくて切なくて虚しかった。
あの時の彼は私が生み出した幻覚だったんだろうか。
当時の日記を見返すと私の好きだった彼が溢れている。

さようなら、私が好きだった人。