思い切りオシャレをして劇場へ。エンターテインメントに救われる人生

日生劇場にミュージカルを観に行った。2年前の再演の演目の初日。ミュージカルでもライブでも映画でも、初日って独特の雰囲気があって好きだ。ふわふわ浮いていってしまいそうな不思議な高揚感と、ここにいる人はみんな同じ初体験をするのだという連帯感。
ストーリーはなんとなく知っていて、好きな登場人物がいたから服装を寄せていった。幾何学模様の入った黒のシアーシャツ、肩紐の細い黒のレザーキャミワンピース、ごってりした黒のブーツ。黒い大きめのリボンのついた髪留めのネットに伸びてきた髪の毛を押し込めた。
メイクもダークでスモーキーなアイシャドウをつけて、アイラインをしっかり引いて、お気に入りの濃い赤のリップをつけた。ピアスもぜんぶの穴にわりと大ぶりなものを飾った。
最近のわたしの日常の大半は規定のユニフォームを着ているし、髪の毛はシンプルなヘアクリップにまとめられている。アイシャドウはベージュ系の淡いものを薄くつけて、アイラインは短めにして先をしっかりぼかして、色つきのリップクリームを申し訳程度に塗って、アクセサリーはつけずに白い不織布のマスクをつける。それはそれで職業人としてのわたしらしさだとは思うけれど、観劇というたまの非日常に思い切りオシャレをする興奮は、もうとんでもないものだった。
演目はもうジェットコースターに乗っているんじゃないかってくらいめまぐるしく、楽しくて面白くて、歌も踊りもお笑いもぜんぶ混ざったエンタメの渦に放り込まれて掻き回されてる気分だった。
とくに歌声は七変化をゆうに超えて万華鏡のように多彩で、自由に劇場中を飛び回っているかのようだった。舞台の上で発されるエネルギーがビシビシと伝わってきて、観客のノリの良さが心地よくて、そのノリに演者ものって…幸せなループの中にいた。
一曲目を終えてショーストップ気味の拍手を浴びて嬉しそうに微笑んだ主演の表情を観ながらちょっと泣いた。昔に比べてひとの幸せそうな顔に涙腺がゆるむようになった。逆に、つらく苦しい場面で涙は出づらくなっていっている。でも、幸せそうな表情で泣けるから、感情を殺してはいないのだと信じられている。
エンターテインメントを楽しみ、ひとの幸せそうな姿に泣く余裕がある自分に安心する。そういう意味でもエンターテインメントに救われて生きている。
もとの演目はブロードウェイだから、帰り道からずっとそのサントラを繰り返し聴いている。ありがたいことに不自由なく楽しめる程度には英語が使えるから、英詞と日本語詞のニュアンスの違いや音数から受ける印象の違いを興味深く聴いている。
円安がもう少し落ち着いたら、いつかNYに行ってブロードウェイ版も観たい。明日の不確実さを突きつけられる毎日の中で軽やかに未来を見据えられるのも、エンターテインメントの力なのだろう。これからもエンターテインメントを楽しみながら生きていきたいと噛み締めた、嬉しい1日だった。
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