「ごめんね」その一言で壊れてしまう関係がある。私だけは私が悪かったことを知っていて、本当は謝りたかったけれど、相手が私のことをどう思うのか呆れられるのではないかと不安になって、言えなかった。

そんな思い出はいくつかあるけれど、大切にしたい相手にこそ、なかなか伝える決心がつかなかった。そして、その時から、ずっと私の心に引っかかっている。

あの時、言えなかったから関係は続いたのかもしれないし、心に引っかかったままだから続かなかったのかもしれない。いま、わかるのは結局、関係は壊れてしまったということだ。

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毎日のように、集まって教科書や問題集を広げて勉強をしていれば、使っている文房具が誰かの持ち物に交じってしまうことだってある。なくなったことに気づいて、声を上げてくれれば、返す機会も作れるけど、誰も気づかないまま年月が過ぎてしまうとどうしたって返す口実が必要になる。

最初は、小さな憧れで少しだけ近づきたかっただけだったと思う。たくさんの種類がある色ペンの中で、彼女の持っているものが欲しかった。そんな気持ちと小さな出来心で、私は彼女の色ペンを自分のペンケースへしまってしまった。

最初のうちこそ、憧れの彼女が使っているものが私のペンケースにあることが誇らしかったし、そのこっそり感が小さなときめきを届けてくれていた。でも、共通の友達ばかりの私がその色ペンを人前で使うことができないことに気づいてから、自分のやってしまった悪いことに対する罪悪感が押し寄せてきた。

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そして、その日から、ペンケースはちょっとだけ重くなった。それでも、返せるタイミングがあればと思って持ち歩いていた色ペンだったけど、返そうと思うたびに、なんていえばよいのかわからないままだった。

考えれば考えるほど悪いイメージばかりが膨らんで、憧れだった彼女と会うことすらちょっと苦手になっていた。そして、なくなったことに気づかない彼女にとってそれほど、大切なものではなかったのだろうと自分を納得させて、ペンケースから色ペンを取り出した。

クラス替えもあり、そのころには彼女とはちょっと距離ができていたし、そのまま卒業になってしまった。

まだ私の手元には、あの色ペンがあるはずだ。ほんの出来心だったはずが、謝れないまま彼女との関係を変えてしまったあの色ペンが。

彼女とは幼稚園から中学3年まで、なんとなくつかず離れずではあったが、この出来事をきっかけに少しだけ後ろめたさがあった。そして、その後ろめたさはずっと彼女の思い出と一緒に私の中にある。

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あの時、謝っていればこんな思いを抱えずに彼女とはまだ友達だったかもしれないし、謝ったことで嫌われてしまったかもしれない。

どちらが正しいのか、私の望む結果だったのかはわからない。それでも、この小さな失敗を私がずっと覚えていることは、きっと私にとって彼女が大切な友達だったからこそだと思う。言えなかった謝罪と彼女との思い出がこの先、少しでもいい思い出になるように、小さな笑い話に変えていきたい。