背伸びとは、身の丈に合わないくらい大変なことに挑戦すること。

私の初めての背伸びは、中学受験だった。

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小学校中学年くらいのときから、地元の中学校の近くにあった公立の中高一貫校(A中とします)の存在を意識し始め、そこに行きたいなー、と漠然と思っていた。小学校でそこそこの成績を収めておけば合格できるという事だったので、中学校はそこに行くのだろうと母も私も思っていた。

小学校5年生になってしばらくたったある日の放課後、当時の担任の先生に「中学受験とか、考えてる?」と聞かれた。A中に行きたいと言うと、「え、勿体ないよ、B中とか受けてみたら?」と言われた。B中というのは、私の住んでいる地域で、いや全国でも有名な超難関の中学校だった。といっても当時の私はペーペーの小学生。そんなことは知らずに、家に帰って母に「先生に勧められたからB中受けたい」と言ったのだ。母は驚いたと思うが、反対せずに私の意見を尊重してくれた。

その後しばらくして、私は過去問を見て初めてB中の難しさを知ることになる。算数は複雑な図形の問題がずらりと並んでいるし、計算問題も難しそう。理科、社会は知らない単語だらけ、国語の文章も超長い上に記述多め。無理かもしれない。でも何とか頑張ってみたいと思った。結局A中とB中を併願することを決めた。

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問題の傾向が全く違ったのでそれぞれについての対策が必要だった。しかも、塾には絶対に行きたくなかった私は、通信教育だけで中学受験に挑むことにした。塾なしで難関中学を受けるなんて、誰が見ても無謀な挑戦。学校から帰っても友達とは遊ばず、毎晩遅くまで勉強する日々。あの時は気が付かず無意識にやっていたが、夜な夜なシャープペンシルの先で腕を引っ掻いていたのはストレスによる行動だったのだろう。この傷跡は数年間消えなかった。

それでも試験当日まで走りきった。 B中が無理かもしれないと思っていたのでせめてA中には受かりたいと思ったことがプレッシャーになり、A中の試験の日は不安で泣きそうだった。B中の試験会場には様々な塾のリュックを背負った生徒たちがひしめき合っていて、とても怖かった。休み時間に塾の仲間と思われるグループができていて答え合わせをしている中、私は1人で黙っているしかなかった。全ての試験が終わった日は帰ってすぐに死んだように眠った。我ながらよく頑張ったと思う。

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結局B中には不合格となりA中に進学した。B中の不合格通知を見た時は、生まれて初めて悲しい以外の感情で泣いた。ああ、こんなにも頑張っていたんだ私、と思った。

でも、この無謀な挑戦が無駄だったと思ったことは一度もない。一部に中学範囲を含むくらいの高難易度の問題をこなしていたことは、中学以降で上位に食い込む上で大いに役立った。部活と勉強の両立でヘトヘトの日々も乗り切れた。何より、自分は頑張れる、まだまだやれるという自信を得られた。

先生の一言によって背伸びをし、がむしゃらに頑張った経験は、今の私に力をくれている。