同じ思いは絶対させたくない。自分の子供には、安心できる実家を

私は27年間実家暮らしだった。愛するパートナーができて、一緒に暮らそうと言われるまで1度も実家を出たことはなかった。
ずっと1人暮らしがしたいとは思っていたのだが、実家が通勤に便利な立地にあることと、毎月増えていく貯金がいつも私を引き留めた。でも私は実家が好きではない。家庭内が崩壊しているからだ。
実家の居心地は非常に悪かった。常に誰かと誰かが喧嘩をしているし、そうかと思えば誰かの悪口大会が始まる。誕生日の当日だって、おめでとうの一言もない。なんなら忘れられている。
私は寝に帰るだけで、ほとんど家にはいないようにしていた。いざこざに巻き込まれたくないし、とばっちりを受けて傷つくのはごめんだ。
家庭が崩壊していることは人にはあまり言えないのだが、この話を聞けばみんな口を揃えて「いい大人なんだから、実家出たら?」と言うに違いない。本当にその通りである。その方が精神衛生上、間違いなく良い。
でも私が実家を出なかったのは本当に金銭的理由だけだろうか?
1人暮らしで実家を出ることは躊躇していた私だが、同棲を提案されたときは飛び乗った。光の速さで物件を決め、あっという間に引っ越した。
いざ実家を出ると、帰省するきっかけがなくて困った。販売職の私はお盆もお正月もない。家族と連絡を取ることもないし、このままでは完全に繋がりが切れてしまうなぁ、と思っていた矢先だった。父が急に倒れそのまま亡くなった。それは私が最も恐れていたことだった。
もっと話しておけば良かった。何が好きで、何が嫌いで、どんな人生だったのか。私のことどう思っていたのか。何も知らないまま、あっけなく死んでしまった。
実際に実家で暮らしていたときは、まず会話にならなかったし避けるように過ごしていたけど、顔を見ずとも玄関に並んだ靴を見てどこかほっとしていた。今日も無事帰ってきたんだな、と分かるからだ。
実家を出てからはその安心感は自分で得なければならないのだ。母ももう歳だから、いつ何が起こるか分からない。後悔しないように、用事はなくとも今は月に1度様子を見に行くようにしている。顔を合わせると、「あんたはもう家を出たんだから家族じゃないからね」などと余計なことを言われては傷ついて帰ることを繰り返している。それでも後々後悔しない方を選びたい。
私にとって実家暮らしは窮屈であったが、もし私に子どもができたら今度は私とパートナーが暮らす家がその子にとっての実家になる。私と同じ思いは絶対にさせるまい。実家はいつでも帰ることができて、安心できる場所であるべきなのだ。
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