憧れのロリータ服に袖を通した。どうしようもなくぞくぞくした

「人生で1回ロリータを着てみたい」幼馴染がSNSでそう呟いた。
いいね、私もやりたい、場所どうする、どこで借りる、ここいいよ、共通の幼馴染たちがすぐさま食いついた結果、今度の定例会のテーマは「ロリータを着て写真を撮ろう」になった。
ゴスロリやロリータは、私にとって手の届かない憧れ。
きっかけはアイドルアニメのキャラクターだった。吸血鬼の末裔という設定を完璧に演じるアイドルと、早熟の天才で他を寄せ付けないカリスマアイドル。小学生の私はふたりに熱を上げ、歌とダンス、何よりも衣装に釘付けになっていた。
休みの日に覚えたてのパソコンでふたりのことを調べた。彼女たちが着ている、ダークで、ひらひらした、十字架やコウモリなどがあしらわれたような衣装はゴスロリというらしい。ロリはロリータの略らしい。フリフリなのにかっこいい、黒いのにかわいい。お人形さんが等身になったみたい。ふんわりした「好き」に名前がついて、かける熱量が加速した。ゲームのアバターにゴスロリを着せ、家のパソコンで「ゴスロリ」「ロリータ」と検索し、出てきたかわいい服の画像をデジカメで撮り、自作マンガのキャラクターたちにそれを着せた絵を描いて喜んでいた。
ゴスロリもロリータも画面の中で、キャラクターやアイドルやモデルが着るもの。初めてそれらを認識した頃から、ずっとそう思っていた。一重で、目が小さくて、顔の余白が多くて、貧相な体つき。そんな私が、あのかわいいかわいい洋服を着るなんて、冒涜のように思える。でも大好きな幼馴染たちが盛り上がっているところに水を差すのも嫌だった。一度きりなら、他人が一緒なら、罪悪感を和らげられるかも。言い聞かせてレンタルショップに会員登録し、ドール風メイクの練習をはじめた。
頼んでいた洋服たちが届いた。フリフリすぎるものには勇気が出なかったので、真っ白なブラウスと黒いスカート、ミニハットを選んだ。汚さないようゆっくりと袖を通し鏡を見る。
目の縦幅は足りないし、顔は有り余っているし、パニエから伸びる足は太いし、似合うか似合わないかで言ったら、似合っていない。服がかわいそうに思えてくる。でも、どうしようもなくぞくぞくした。5歳の誕生日に写真館でシンデレラのドレスを着せてもらったときのような、小学校の卒業式用にとアイドル制服風セットアップを買ってもらったときのような、不思議な高揚感だった。
幼馴染はみんな本当に優しい。着替えた私をかわいいと褒めてくれた。スマホのアルバムにはゲームのスクショと風景の写真しかないような私が、初めて鏡越しに顔を隠して自撮りするくらいには浮かれてしまった。この私が、だ。
書きながら、あの日のぞくぞくをもう一度味わいたくなってきた。きっとまた、届いた服を着てみて、似合わないと落ち込んでしまうような気がするけれど。選んだ服がかわいそうに見えないように、少しでもかわいいを偽って、今度はフリルの段数を増やしたい。かもしれない。
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