「夏だから、いいよね」。初めて選んだ鮮やかな黄色のアイシャドウ

夏は、人々を開放的な気分にさせる。気温が高いこともあり、心身ともに露出度が上がる。そんな不思議な力を持っていると私は思う。
胸の内にひっそりと秘めていた願望が、夏の気温が上がると共に、じわじわと顔を出す。その願望を叶える為の合言葉は、「夏だから、いいよね」だ。
私はその日、ドラッグストアにいた。日用品を買い足すついでに立ち寄った、化粧品売り場のコーナーで足を止める。広告の中にいる綺麗なモデルさんたちが眩しくて、なんとなく目を背けるように目の前にある商品を手に取ってみる。
ファンデーション、リップ、マスカラ、コンシーラー…。あまりの種類の多さに、頭が混乱しそうになる。視線をアイシャドウコーナーへと移した。
ベージュやブラウンなど、"無難な"色が目立つ中、やけに気になるのは青色や黄色、ピンク、オレンジなどの明るい色。試供品とかかれた黄色のアイシャドウに手を伸ばして、恐る恐る自分の手の甲に色を乗せてみる。
その鮮やかさに、心が大きくときめいた音が聞こえた。
これを瞼の上に乗せたら、どんな自分になるんだろう…?とワクワクした気持ちが膨らんでいく。
夏は黒や茶色などの暗い色は暑苦しく感じるから、逆に黄色やピンクとか明るい色を身につけた方が世間的にも良いんじゃないだろうか?そうだ。そうに違いない。
というか買ったところで、この量を使い切れる気がしない。やっぱり勿体無いんじゃないだろうか…。いや、せっかく新しい色にチャレンジしてみようと思えたこの気持ちを無かったことにする方が勿体無いんじゃないか?そうだ。買うなら今しかない!
そんな脳内会話を繰り返し、私は黄色のアイシャドウをカゴに入れてレジへと向かった。今思うと都合の良い解釈だが、あの時の私はどうしてもそのアイシャドウが欲しかったし、ワクワクした気持ちを抑えきれなかったのだ。
帰ってきて、早速アイシャドウを開封し、指の腹を使って瞼の上に色を乗せてみた。鏡を見た時の、高揚感。似合っているか似合っていないかなんて関係なかった。ただ、「黄色いアイシャドウを付けた自分」がそこにいるだけで最高に嬉しかった。眩しいラメがキラキラ反射して、世界がいっそう輝いて見えたのだ。
ああ、次の休みの日が待ち遠しいな、せっかくだから服装もメイクに合わせないとな…。あ、そういえば今月お金を使いすぎていないか?でも夏はあっという間に終わるし…。
1人頭の中でぶつぶつ考えながらも、私は今すぐにでも予定を入れたい衝動を抑えきれずに、急いでスマホを探し、SNSのアイコンをタップした。
「夏だから、いいよね」
普段は選ばないような派手な色を身に付けることができたのは、間違いなく「夏」という存在のおかげだ。いや、仕業と言った方がしっくりくるだろうか…。どことなく心を開放的にさせる夏の魔法にかけられて、私は新しい自分と出会った。
案の定、買ったアイシャドウは一夏で使い切ることなく化粧ポーチの奥でひっそりと身を寄せている。また使うかは分からないが、私はそのアイシャドウを捨てられずにいる。
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