科学館で忍者になりきった1週間。人見知りの私の大きな挑戦

大学3年生の夏休み、将来の方向性を考えるべく1週間のインターンシップに参加することにした。周りは短期留学に行くとか、大会に出るとか、何かしら挑戦をすると聞き焦ったから。
大学3年生の夏休みという大事な時期を、このまま何の予定もなくダラダラ毎日過ごしたら終わってしまう危機感を感じ、何か自分のためにしなきゃと思った。
そこで、単位がもらえるインターンシップがあると知ったので、行くなら単位がもらえるものにしようと、大学と提携しているインターンシップ先から選ぶことにした。就職活動に向けて考えているこの時期、職種を知れば知るほど、目移りしてしまうので、このインターンシップは接客業が自分に向いているか知るという目的で参加することに決めた。
いくつか候補がある中から、実家から近く通いやすい科学館に決めた。人見知りで緊張しやすい私が、接客業を選ぶというのは、大きな挑戦だった。
博物館や科学館などを小さい頃から見るのが好きだった私は、接客業という職種に苦手意識はありつつも、そこでスタッフとして働いてみたいと思っていた。初めて見るような展示ばかりで、スタッフに質問をすると答えてくれる。そんな空間が好きだったからだ。
面接を受け無事インターンシップ先が決まり、迎えた初日、具体的な1週間のインターンシップ内容を知った。夏休みの企画展の運営スタッフ、「忍者になること」。
忍者と言えば誰しもイメージする、全身真っ黒の衣装を着た。黒い靴とズボンを履き、裾が弛まないようにしっかり結ぶ。上着を羽織り、腰には紐を巻く。額にはハチマキも着けて、忍者になりきるのだ。
いくら冷房の効いた館内とはいえ、全身を布で覆われているため、暑かった。でもそんなことは言ってはいけない、私は忍者と言い聞かせる。
私の担当は、企画展の中でも人気な体験コーナーだった。忍者になるための修行ができ、全部の修行を終了すると忍者認定書がもらえるというもの。
私は、手裏剣を投げるコーナーを担当した。的に向かって5回手裏剣を投げ、3個以上手裏剣が刺さったらプレゼントをあげる。プレゼントは1人1個だが、挑戦は並べば何回でもできる。
手裏剣を的に刺すのは、コツがあるのでなかなか難しい。そのため、たまにお客さんから質問をされる。「これって本当に刺さるんですか?」そう聞かれると、言うより、やってみせた方が話は早い。
少し離れてもらって的に向かって手裏剣を投げる。失敗することもあるが、2回目には刺さる。「おー!」と歓声を浴び、得意げな気持ちになる。だって、この服を着ている間は忍者だから。
実はかなり練習した。科学館が開くまでの時間で何度も。他のスタッフと一緒に練習し、こう持って、回転をかけながら投げれば刺さりやすいと、必勝法を生み出した。
そのコツを、忍者のひよっこたちに伝授する。最初は1つも刺さらなかった子も、何回も挑戦しコツを掴んでいく。中には自分の番を待つ間、手裏剣を投げる素振りをしている子もいた。連日大盛況で、インターンシップは終了した。
初めは、自分にできるかなと不安でドキドキしていたインターンシップ。科学館での接客。私は忍者になりきることで、忍者という鎧に助けられて接客ができたような気がする。
自分だけ取り残される気がして、焦って参加したインターンシップで、自分が苦手だと思っていた接客業に挑戦することができた。単に、アルバイトだったら応募すらしなかった経験ができたこの夏を、子ども向けの企画展を見かけるたびに、思い出す。
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