私は辛いものが得意ではない。
誰かとごはんに行くときに、嫌いなものや食べられないものはないか聞かれるが、そこに辛いものを列挙することはない。

なぜなら、大抵辛いものだけがそのお店のメニューにあることは少なく、辛いもの以外を食べることが選択できるからだ。
しかし、一時火鍋を食べに行こうという誘いが多くなったことがあったが、その時だけは辛いものが苦手で食べられないと言って誘いを断った。

◎          ◎

そんな私が辛いものを食べるわけは、エスニック好きの人とごはんに行くためだ。
その人は仲良くなりたいと思う会社の先輩で、先輩が提案してくれたお店がエスニックだった。一瞬辛いメニューしかなかったらどうしようかと悩んだが、お店のホームページを見てみると、辛くないメニューもあったので安心してその店に行くことを承諾した。

約束の日になり、待ち合わせ場所に現れた先輩が普段 会社では見ない休日の服装をしていることに心を躍らせながら、店内に入ったところで、厨房から漂ってくる香辛料で2人ともむせて、お互いに視線を交わした。

エアコンのスイッチは入れられているはずなのに蒸し暑いのは、店のタイ本国を感じてほしいという心遣いなのか。

まずはタイのビールで乾杯した。
彼も辛い食べ物は得意ではなく、私は密かに安堵した。
辛くないメニューを中心に3品注文した。
そのうちガパオライスは辛さが変えられるタイプだったので、下から2番目の辛さにした。

お店に辿り着くまでがとても暑かったので、冷たいメニュー且つ、すぐ出てくるメニューで生春巻きを選んだが、なかなか出てこず空きっ腹にビールをちびちび入れた。
生春巻き自体は辛くなかったが、つけダレが辛くてビールがよく進んだ。

会社の人とはできるだけ会社の話をしないでおこうと思っていたが、やはり盛り上がるのは今抱えている仕事の話や、共通の知り合いの話題だ。
先輩は旅行によく行くようで、思い出話をしてもらったが、その話が面白かった。

◎          ◎

私もコロナ前はよく海外旅行をしていた。
私が行ったことある国は大体全部行っていて、あの国のどういうところがいいという切り口で盛り上がった。
この国には行ったことがないだろうと思って得意気に話していると、先輩も行ったことがあり、なぜか悔しい気持ちになったが、マイナーな国の思い出を共有できるのは楽しかった。

ここまで海外旅行の話をできる人はなかなかいなかったので、それだけでテンションが上がった。
またインドア派に見える先輩が、 ここまでアウトドア派だというのも嬉しい驚きだった。

あまり辛くないはずのガパオライスが思ったより辛く、心地よい汗をかきながらビールと一緒に食べ進めた。辛いものを食べていると爽快感があり、暑い季節に辛いものを食べる醍醐味だと思った。

結局その先輩と仲を完全に深められたかはまだ分からないが、エスニック料理という辛い食べ物を一緒に食べたことによって、先輩のことを知ることができてとても満足している。