平成生まれ32歳の私。恋人を作るためには、令和時代の恋活の方法が私には合っていると思う。マッチングアプリで出会い、数回デートして、告白されたら付き合う。そんな令和の恋活スタイルが、受け身な私にはきっといい。

8年前のあの夏、私はまだ「平成の恋活」ど真ん中にいた。特別目を引くような美人ではない私は、待っているだけでは恋が始まらないと、どこかで気づいていた。そんな私が人生で一度だけ、自分からデートのお誘いをした人がいた。

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アラサー目前の初夏。友人に誘われた合コンで話した3歳年上の彼は、私のドンピシャタイプだった。見た目だけでない。声のトーン、笑うタイミング、土日のどちらかは家にいたい派なところ……なんというか全ての波長が合うと思った。

「この人から連絡がくるといいな」

そう思っていたけれど、合コン後に彼から連絡は来なかった。他の女性に連絡をしたのかも。冷やかしで参加してたのかも。私の友人に連絡をしたのかも。

マイナス思考の渦の中、自室のベッドの上でスマホを握り締め、彼の連絡先を眺めるだけで時間が過ぎていく。

ひとまず一緒に合コンに参加した友人と、誰から連絡が来たか報告LINEを送り合った。彼が友人に連絡をしていないとわかり、胸をなで下ろす。
その後、「合コン後 女から連絡 ありなし」とスマホ画面に入力し、ネットで恋活攻略記事を読み漁る。ポジティブな意見だけを脳内に取り込み、連絡が来た場合のあらゆるパターンを想定した。乗り気な返信、そっけない返信、既読無視……。それでも、乗り気じゃなければ合コンに誘おうとか、夏だしBBQもありかもとか、普段の私よりポジティブ増し増しで気持ちを奮い立たせた。

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文章を書いては消してを繰り返し、スマホと格闘した末、人生で初めて自分から気になる人に連絡をした。自分から連絡を送るのってこんなに勇気がいるんだとわかり、今まで自分に好意を寄せて連絡をしてくれた人に今さら感謝したい気持ちになった。
返事はわりと早く返ってきて、私の分析だと「乗り気な返信」だった。けれど、自分に自信がない私はマイナス思考モードに陥る。体目的かもとか、何かの勧誘をされるかもとか。

女から連絡するなんて、都合よく扱われるに決まっている。最悪のケースを想定して、「どうにでもなれ!」と自分を奮い立たせた。

彼とは合計8回くらいデートした。あまりにもタイプすぎて、3回目まで彼に慣れることができず、緊張してろくにご飯が食べられなかった。我ながら恋する乙女だった。

場所は、水族館、花火大会、夏祭り……夏の王道デートを重ねたけれど、結果付き合うことはなく、自然とお互い連絡を取らなくなってしまった。

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実は4回目に彼から家デートのお誘いがあった。けれど私は、体目当てかもしれないと思い断った。当時の私は、「付き合おう」という言葉にこだわっていた。

もう未練はないけれど、今でも時々あの夏の出来事をふと思い返すことがある。あの時、家デートに応じていたら彼氏彼女の関係になっていたのかな……と。

そして、少しだけ大人になった私は、彼が遊びではなかったのだと今ならわかる。私が勇気を出して彼に連絡したように、彼も「付き合おう」と言うのに勇気が必要だったのだと。

令和の今は、もっとスムーズに恋を進める方法もあるだろう。けれど、自分から気になる人に連絡をするため、あれこれ考えた時間。「平成の恋活」真っ只中だったからこそ出せた勇気だと思う。

彼と過ごした数ヶ月間は思い出すと切ないけれど、それは自分が殻を破ったから過ごせた時間だ。あの夏に出した小さな勇気は、受け身の恋愛ばかりしていた私に少し自信を与えてくれた。