ゴットランド島へ渡った夏。見知らぬ地で人を信じるということ

2014年の夏、私はスウェーデンにいた。交換留学制度を利用して翌年の春までスウェーデンの大学に通うことになったのだ。秋学期は9月から始まる。秋学期が始まるまでの夏休み期間、現地の学生たちは実家に帰省し家族との時間をのんびりと過ごしていたり、海外旅行を満喫していたりするのが定番のようだ。そのためかその期間中のキャンパスはどこも閑散としていた。
それでも私が8月から留学先の大学にいたのは、スウェーデン語の集中講義を受けるためだった。スウェーデン人はスウェーデン語が公用語であるものの、英語力が高くネイティブ並みに流暢な英語を話す。正直、1年間ほどの留学生活であればスウェーデン語を習得しなくても生きていける。しかし、せっかくスウェーデンでの留学生活を送るのならば初級レベルでもいいからスウェーデン語を身につけたいと考えた私は、一足早く留学生活を始め、スウェーデン語を学ぶ集中講義を受けたのだ。
集中講義を受けていたとはいえ、秋学期が始まるまでは比較的時間に余裕があった。緯度が高いスウェーデンの夏は短い。束の間の夏が終わると寒さの厳しい冬が長く続く。それゆえスウェーデン人にとって夏は貴重な季節なのだ。そんな貴重な季節に私はここにいる。それならば現地の人々のように夏を満喫するしかない。そう思った私は、週末を利用してゴットランド島を訪れることにした。
ゴットランド島は首都ストックホルムから飛行機でおよそ40分、フェリーでおよそ4時間で行けるスウェーデン最大の島だ。この島の最大の街であるヴィスビューはジブリ映画『魔女の宅急便』でキキが1年間修行した街コリコの舞台となった地とも言われている。美しい街並みはスウェーデン人にも人気で、夏になるとこの島で過ごす人が多いらしい。
私は幼い頃から『魔女の宅急便』が好きで、一時は不安に押し潰されそうになってスウェーデン留学を辞退しようかと悩んでいたときに支えになったのは主人公キキの勇敢な姿だった。「キキは13歳で見知らぬ街で修行したんだから20歳の私にだってできるはず」と言い聞かせ、気づけば私はスウェーデンに来ていた。
そんな思い入れのある島を絶好の夏に訪れておきたいと思い、フェリーでその島へ向かった。運航中、デッキで船から海の景色をぼんやりと眺めているとカップルが声をかけてきた。話を聞くと2人はドイツ人で、彼女はその前年まで日本でALTをしていたらしい。明らかにアジアンフェイスの私に親しみを感じ、声をかけてくれたようだ。会話を重ねていく中で、ゴットランド島に滞在中の宿泊先が私の宿泊先の通り道だと判明し、下船後タクシーに乗り合わせることになった。
私たちが乗車したタクシーのドライバーは一見イカつく若い男性。2人が下車した後もこのドライバーとの時間は続く。ちょっと怖さもあった。しかし、外見とは裏腹に最後の最後まで親切だった。到着した宿泊先は島の中心地から25kmも離れた田舎町。街灯がなく、光るのは夜空の星だけ。そんな真っ暗な場所にたどり着いた私が無事にゲストハウスの鍵を見つけ、開錠できるまで見届けてくれた。
世の中はいい人ばかりではない。悲しい事件も頻発するこの時代、ましてや現地の言葉も流暢に話せない環境で小娘はいろんな人たちに助けられて旅をした。これこそが旅の醍醐味なのかもしれない。
スウェーデンを訪れてまだ2週間ほどしか経っていなかったあのとき、思いきってゴットランド島へと渡った先には美しい景色だけでなく、そこに暮らす人たちやそこで旅をする人たちとの出会いがあった。
ゴットランド島を旅したことが至上最高の夏の思い出になったことは言うまでもない。
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