夏だからできたというよりは、ある夏の出来事をきっかけにできたエピソードである。
先日、友人に誘われてあるライブに行ってきた。概要としては、某アイドル育成ゲームから生まれたアイドルたちのライブである。ゲーム内でトップアイドルとなった彼らが、実際に目の前で歌い踊ってくれるというもの。だが、本当にステージに立っているのは、そのアイドルのキャラクターになりきった声優たちである。

友人に誘われたとき、ここまでの説明をされて「なんとなくわかった」と言いはしたものの、本心では2割も理解していなかった。それくらい私には縁がないコンテンツで、果たして私が行っても大勢のファンの邪魔にならないだろうかと不安になったくらいだ。

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当時の私のスペックはというと、ずっと嵐を追っかけていたので、ライブやアイドル文化には馴染みがある。声優もある程度知ってはいるが、知っているのは40〜50代のベテランたちばかりだし、声優とはそもそもあまり表舞台に出ないご職業なので、名前は知っていても顔が一致しない。つまり目の前に彼らが現れても、正直どなたかわからない状況だ。
行くまでにできる限りの知識はインプットした。曲も5曲くらい覚えて行った。それでもアウェイの洗礼を浴びる可能性は大いに残っていて、めちゃくちゃビビりながらライブに挑んだ。

結果、驚くほど楽しかった。約70曲、4時間の長丁場だったが、まったく飽きることなく全力で楽しんでしまった。友人に「誘ってくれてありがとう」と何度も伝えたくらいだ。

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今回、そんな馴染みのなかったジャンルに足を踏み入れたのには大きく2つ理由がある。
まず、元々働いていた会社の社長の話で、忘れられない教えがあった。

社長はオタク文化に興味ない人なのだが、知人に誘われてコミケに行ったらしい。オタク文化の中でもハードルが高いあのコミックマーケットだ。後日、社長は「興味がない現場でも機会があれば行ってみるといい。コミケの長蛇の列の管理体制に感動した。あれは行ってみないと知り得ない日本人の誇りだ」と話していた(気になる人はYouTubeで調べてみてほしい)。

そして2つ目。2022年の夏に初めてフェスに行った。好きなアーティストが出る枠は短く、だったらワンマンライブに行った方がマシだろうと薄々思いながら参加したのだが、知らないアーティストでも心の底から楽しめた。隣同士知らない人でも笑い合ってしまうあの空間は、音楽があってこそ成り立つものだ。おかげでその日以降、私の好きなアーティスト枠にVaundyとSaucy Dogが仲間入りした。

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だから今回も行ってみることにした。そう判断した私を褒め称えたい。

誘われなければ絶対に触れることがなかったであろうコンテンツだ。今年の夏の一番の思い出と言っても過言ではない。それくらい楽しかったのだ。
音楽って素晴らしい。アイドルって素晴らしい。アウェイを1ミリも感じることなく生還した私は、即座にプレイリストを作った。ライブ会場で初めて聴いた曲を、今では毎日聴いている。