宿題よりプールを選んだ。罪悪感とドキドキを抱えた中二の夏の冒険

中学二年生の夏、私は大冒険をした。それは夏が私を勇敢にさせてくれたのに他ならなかった。
八月も下旬、もうすぐ夏休みが終わろうとしているときのことだった。私は友達とプールに行く約束をしていた。夏休み前から、プールに行きたいねと話していた。
ところが、私は宿題がどっさり残っていた。母は、宿題が終わるまでは遊びに出かけてはならないと言った。
それでも私はどうしてもプールに行きたかった。友達と予定が合いそうな日までにはどう考えても宿題を終わらせることはできなかった。
そこで私は一世一代の、家出作戦を計画した。
二世帯住宅だったので、隣の祖父母の家から外に出てしまえば母にはバレない。母がいないうちにこっそり靴を祖父母宅の玄関に移動しておいた。
その日母は上機嫌で、それは私の心を曇らせた。私がこっそり家を出た事実を知ったら、母の上機嫌は終わってしまうからだ。とてつもない罪悪感に襲われながら、それでもどうしてもプールに行きたいという強い気持ちだけを胸に、家を出て自転車を漕ぎ出した。
行き先も告げず出かけるのはさすがに心配をかけてしまう。それはしたくなかったので、家を出て少し進んだところで自転車を止めて、母にメールを入れた。
「ごめんなさい、プールに行きます」
ドキドキが止まることのないまま、ただひたすらに、自転車を漕いだ。
プールに着くと当然友達が待っていて、ほっとした。約束していた友達のみならず、こっそり私の当時付き合っていた彼氏を呼んでくれていたりして、本当に楽しかった。
町営の、何もないただのプールだけど、私たちは泳ぎに泳いで、夏の終わりを楽しみ尽くした。そのときばかりは、母に黙って家を出てきたことなど忘れていた。
しかし楽しい時間などあっという間に終わってしまう。まだまだ明るい夕方の道を一人、自転車を漕いで帰路についた。帰ったら絶対に怒られるとわかっているのに、帰るべき家はひとつしかないのだ。
どんな説教が待っているかとドキドキしていたが、帰宅すると母は静かに一言言っただけだった。
「スマホは没収します。スマホがあるからこんなことするんでしょ」
私はどんな説教にも耐えるつもりだったので、反発もせずスマホを出した。買ってもらったばかりのスマホを没収されるのは正直痛かったけど、このくらいで済んでよかったと思った。それほどまでに、プールに行きたかった。後悔はなかった。
今思うと、夏休みのたった一日、どうしてあんなにプールに行くことにこだわっていたのかわからない。とっとと宿題終わらせておけばよかったのに、馬鹿だなぁと思う。でもあの日の選択はやっぱり後悔していない。何度やり直したとしても私はこっそり家を出ていたと思う。
あの夏は、私に最高にスリリングで楽しい思い出を残してくれた。
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