私は大学生のとき、ニュージーランドと中国にそれぞれ1学期間ずつ留学しました。誰もが「留学は楽しいもの」と思い浮かべるかもしれませんが、私の体験は必ずしも理想どおりではありませんでした。むしろ、文化や食習慣の違い、言葉の違い、人間関係での戸惑いに直面し、「帰りたい」と切に思う瞬間もありました。

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まずニュージーランドで驚いたのは、主食のパンが日本と違う食感だったことです。日本のふわふわで甘みのあるパンとはまったく異なり、固めで塩味が強く、噛むほどに小麦の香りが広がるものでした。毎朝それをかじるうち、だんだん噛むことに慣れてきたものの、やはり白いご飯のほうが恋しくなります。

ホストファミリーは親切でしたが、私の大人しい性格ゆえ積極的な会話ができず、互いの距離は思ったより縮まりませんでした。休日には日本人の友人とビーチや山を訪れ、雄大な自然を満喫できたものの、「ホームシック」と無縁にはいられず、何度も日本の家族や友人を思い出しました。

一方、中国留学では、生活インフラの違いに戸惑いました。トイレでは紙をそのまま流せず、ゴミ箱に捨てる必要があり、そのたびにハエが集まってくる光景に強い違和感を覚えました。また、中国の食事は脂っこくて辛いものが多く、日本風の麺類などを選ぶ日が続きました。

授業はすべて中国語で進行し、はじめは講義内容の半分も理解できず落ち込んだものの、日本語学科の学生が多い大学だったため、日本語コーナーというイベントで友達ができて、ときどき日本語で質問や雑談ができたことは大きな救いでした。

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それでも、両国で忘れがたい「楽しい経験」も数多くありました。ニュージーランドでは現地の日本人留学生とともに、フィッシュ&チップスやホーキーポーキー(アイスクリームの一種)を何度も食べ歩きました。透き通る海岸線や断崖絶壁のハイキングコースを巡り、あまりの美しさに言葉を失ったこともあります。

一方、中国では、世界遺産・万里の長城を訪れました。果てしなく続く石段を登りながら、遠い昔に人々がこの巨大建造物を築き上げた苦労や情熱に思いを馳せ、胸が熱くなりました。

帰国前、私は「留学とは異文化に飛び込み、自分を鍛える機会だ」と改めて考えるようになりました。言葉が通じず孤独を味わう経験は、想像以上に心を削りましたが、そのぶん異文化理解や自己表現の重要性を身をもって学びました。日本に戻った今、ホームシックで涙した日々や、パンをかみしめながら食卓を囲んだ光景、ハエが飛ぶトイレにおびえた瞬間さえ、すべてが私の財産です。

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異なる価値観や習慣を持つ人々と接し、自分の思い込みがいかに偏っていたかを実感したことは、今後の人生においてかけがえのない指針になるでしょう。私はこの留学経験を通じて、「当たり前」を疑い、新しい視点を獲得する力を養いました。これからも未知の世界に恐れず飛び込み、多様な人々と関わり合いながら、自分自身をさらに成長させていきたいと思います。