パスポートを取りたい。今年の夏、はっきりとそう思った。

高校は英語進学科という、その名の通り英語に特化したクラスに通っていた。私が英語に興味を持ち始めたのが中学のときで、高校は迷わずその学科を選んだのだ。

英語進学科というだけあって、時間割には週に10コマ以上もの英語関連の授業が組み込まれていた。し、同級生も皆、ある程度海外移住を視野に入れているような感じで、実際に高校在学中に学年の半分ほどがカナダに短期留学にも行っていた。交換留学で来たアメリカとカナダの子とも仲良くなった。それだけ私の高校生活というのは、一般に比べれば海外色が強かったと思う。

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だが、私は短期留学に行かなかった。22年間、一度も国外に出たことはない。英語大好き人間を豪語しているのに、由々しき事態である。

明確な理由といえば、やはり食文化だろうか。私はチーズが嫌いで、シチューやホワイトソースなんかも苦手、油っこいものやジャンクフードもあまり得意ではない。日本食は私にうってつけだ。しかし、海外に出ればそんなことも言ってられない。ポテト!ピザ!フィッシュアンドチップス!そんな文化の下、一週間持つ自信が無い。ホームシックならぬ日本食シックで屍のようになるだろう。

だから必然的にパスポートを取るタイミングもなかったのだ。マイナンバーカードがあれば、大抵の本人確認もパスできるから困らない。それが今更になって今年中にでもパスポートを取りたいという意識を持つに至ったのは、やはり危機感からだろうか。

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この際だからはっきりと言うが、私は日本の将来に希望が持てない。原因を明記できればいいのだが、先行き不安な物価高や来るとされている巨大地震、「子どもは産まないほうがいい」と語るSNSなど、様々な要因がある。将来、自分が日本で幸せに暮らしているビジョンが不透明となっている。

そして一番深刻なのは、紛争の余波が日本にも来るかもしれないということ。これは割とずっと前から言われているらしいのだが、今年の夏にやっと私も世界情勢と日本の立ち位置をちゃんと理解した。日本がいかに平和で恵まれているかも。そうして思った。このまま何かあったら私は真っ先に死ぬ、と。

極端な話、パスポートを持っていない私は日本でしか生きられない。例えば明日、巨大地震が起こると分かったとて、国外に逃げることすらできないのだ。せっかく英語を習得しているというのに、とんだ宝の持ち腐れである。食文化云々を言っている場合ではない。

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日本が好きだ。大好きだ。日本人と結婚して、一生日本で生きていたい。でもそれよりも何よりも、まずは生きなければいけない。テレビを見ていると、いつ何が起こるか分からないということをまざまざと思い知らされる。自分の身は自分でしっかりと守らなければならない。一人暮らしであるが故、いい意味で危機管理能力が備わってきた証拠だ。

とはいえ、生きているうちに一度くらいは経験として海外旅行に行ってみたい。行くならハワイだろうか。ニュージーランドもいい。そんな話を友だちと話していたら、「じゃあ韓国行こうよ」と言われた。…いや、せめて英語圏にしてくれ。