「語学はその国の文化をも学ぶ学問である」

これは、大学生の時の第二外国語、いわゆる二外の講師の言葉である。

私はニ外に中国語を選んだ。そもそも英語が苦手だった私は語学に自信がなく、一番日本人にとってとっつきやすい、という理由だけで中国語を履修した。

実際学びやすいかと言われると、人によるだろう。発音は英語以上に難しく、一文字ずつ全ての発音記号を覚えなくてはならない。ただ、日本人であれば漢字には慣れているし、音読みを繋いで行けば、なんとなくで文章が読めることはある。テストで合格最低限の点数を取ることだけでいえば、ある意味容易とも言えるかも知れない。

とにかく、そんなあまり真面目とは言い難い理由で選んだニ外だったが、冒頭の言葉を最初の授業で言われた。その言葉通り、講師はただ文法を教えるだけでなく、中国での体験談や文化を紹介しながら授業を進めた。

気がつくと私は中国の虜になっており、専門科目以上に猛勉強を始めていた。中国から留学に来た友人に教えてもらうようになり、苦手だったはずの語学で、クラス最高成績を収めることができた。その後、資格も取得している。

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新たな言語を話せるようになると、現地で使ってみたくなる。友人が北京に帰省していたこともあり、その年の春休みに初めて中国を訪れた。講師に北京に行くことを伝えると喜んで観光地を教えてくれた。

その中でも心に強く残る思い出は、ニ日目の朝のことだ。友人は、朝食を食べよう、と言うと、日本にもあるファストフードチェーンへと私を連れて行った。朝食からファストフード?と私は少々不思議に思ったが、お店に入って理解した。世界的チェーン店にも拘わらず、日本にはないメニューが並んでいる。その中で見覚えのある二つ。豆乳と油条。ニ外の授業をふと思い出した。

「現地では、豆乳と油条を朝食に食べる」

文章にふと出てきた油条という言葉から、講師が膨らませてそう話した。当然のように、油条ってなんだろう?と思った。その疑問を察知している講師は、揚げパンみたいなものだと説明を付け加えた。みたいなもの、と言われると、あまりイメージが湧いてこない。揚げパンではなく、揚げパンみたいなもの、この違いはどこにあるんだろう。

その油条が今、目の前にあった。一口食べてみる。美味しい。実際、どんな食べ物?と私も言われたら、おそらく「揚げパンみたいなもの」と答えるだろう。
友人は油条を豆乳に浸して食べていた。私も見よう見まねでやってみた。うん、やはり揚げパンみたいで美味しい。

豆乳を一口飲んでみる。こちらも美味しい。しかし、日本とは味が少しだけ違う。あまりのおいしさに一気に飲み干してしまう。うまく説明できないけど、朝に飲むようにアレンジされている気がした。日本人がよく朝食に牛乳を飲むように、こちらでは豆乳を飲むのが文化になっているのを味からも感じられる。
なんで豆乳を飲むの?と私が聞くと、
「豆乳は肌にいいんだよ」
と友人は返した。

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豆乳と油条の朝食に魅了され、それから三日間朝は同じファストフード店に行った。その後、上海など他の地域に行った際も、あの味がどうしても忘れられず、朝食に豆乳と油条を求めて、早朝から出歩いた。これを食べないと一日が始まらない気さえした。

もう一度行く機会があれば、豆乳と油条を朝食に食べたい。旅をすると毎回朝食の時に、あの味との衝撃的な出会いを思い出す。語学を勉強していてよかったな、と少しだけ当時の講師に思いを馳せる。