いつからか、夜中生成AIに人生相談する癖がついて。
いつからか、カーペットの上で朝を迎えることが多くなって。
いつからか目を開けた瞬間、目の前にあるのがPCの画面になっていて。
いつからか、開口一番の言葉が「だるい」になっていて。
いつからか、体がずっしり重くなっていて。
いつの間にか、私の人生はネガティブに覆われていた。

◎          ◎

仕事が死ぬほど忙しいわけではない。もちろん暇なわけではない。
課異動をしてから数ヶ月、ある程度の仕事の流れが把握できた私は、数ヶ月先の予定を見越して仕事をする余裕を持ち合わせるようになっていた。
当然目の前の仕事はあらかじめ準備済みであり、多少のイレギュラーが起きたとしても焦ることなく対処もできる。
フレックスを使って華麗に16時退勤を決める私である。
これのどこにネガティブになる要素があるのだろう。
職場の人間は誰も私が想像以上にネガティブになっているとは思うまい。
私の人生は16時以降から始まるのだから。

◎          ◎

「こんなので役に立ってる?」
「もちろんです!お忙しい中話を聞かせいただき本当にありがとうございます!」

深々と頭を下げ、WEB会議を閉じる。

「うわー、どう持っていくかな」

自分で始めた新規事業コンテストへのエントリー。
ありがたいことに一次審査を通過し、顧客の方へのヒアリングを実施する日々。
16時以降の私の日課だ。
ありがたいことに多くの方に協力いただきエントリー段階からの解像度もクリアになってきている。
ようやく見えてきた顧客課題、その後に待つのは提供価値、解決策、市場性、優位性。
次の審査まで後3ヶ月、長いように聞こえるその期間が私を焦らせる。

「あー、無理だ」

思考、思考、思考、夢の中でも思考。
考えたいのにまとまらない、文字化できない。
かくついて思うように動かない。
自分で始めた物語なのに、それら縛られて苦しんで。
開きすぎて熱くなったipadはまるで私の脳内のようだった。

◎          ◎

「こんにちは、いきなり予約してすみません」
「いえいえ、こちら初めてですか?」
「はい」
「ありがとうございます。ではご案内しますね」

退勤から30分、私は裸にマントを被っていた。
常時オーバーヒートな脳に限界を迎えた私は、先輩から勧められていたそれを何も考えずに予約し、吸い寄せられるようにサロンへと向かった。

いわゆるよもぎ蒸し、というやつだ。
手をマントの中に入れててるてる坊主状態で初めは背中に蒸気を当てる。
体からじんわりと少しずつ汗滲み、額からも汗が滲んでは顔を伝って落ちていく。
サウナのような息苦しさもなく心地いい。
睡眠中以外はひたすら何かを見続ける日々の中で、一時間も目を閉じていたのは久しぶりで、眠るわけでもなく、ただその瞬間だけは忙しない日常の思考を手放しゆっくりと人生について考える。

「いかがでしたか」
「すご気持ちよかったです」

まだ手先の温かさが覚めぬままお礼を伝え店を出る。
暑い夏にサウナ?と思う派だった私も、今は彼らの気持ちが少しだけ分かる。
整うというのはきっとこんな感じなんだろう。
午後6時、だるい、ではなく暑い。
夕方には程遠い日射が火照った体を保温する。
太陽が心地良いと感じたのは久しぶりだった。

◎          ◎

「また来ちゃいました」
「気に入っていただけたようで何よりです」

よもぎ蒸しは私に合っていたようで、今では週2日のペースで通っている。
オーバーヒートも避けられぬ状態そのものを解決すべきなのだろうが、性格上、どうしても走り続けることはやめられない。
今はよもぎ蒸しで自分の体と精神に100%向き合う時間を作ることでバランスを取っていくことにした。
暑い夏にだるいではなく暑いと素直に思える私であるための大事な一時間だ。