四季の中で一番苦手な夏。
ベタベタする汗とジトジトの湿気のせいで、外に出るのも、好きな人と手を繋ぐことすら億劫になる。顔は可愛いのに手汗すごい…なんて思われて、今や当たり前に馴染みつつある蛙化現象に巻き込まれても困るしね。
もっぱらの冬派の私が、1つだけ忘れられない夏の話をしようかな。

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学生時代から、甲子園とか高校選手権とか【学生限定】とつくイベントが大好きだった。
当時はただ、自分の彼氏をスタンドから応援したいという青い気持ちでいっぱいだったから、夏になれば野球部の坊主の彼に恋するし、冬になればグランドでボールを追いかける彼に恋をしていた。

17歳の私が真夏に恋をしたのは、カッコよくて、爽やかで、私よりも背が高い、すらっとした坊主がよく似合う野球部の彼だった。

文系の私は同じクラスには男子はたったの8人しかいなくて、その中で彼氏なんて絶対にできないって想っていた私に、転機が訪れたのは学生の一大イベントのひとつ、体育祭。
偶然見かけた彼に一目惚れをした私はすぐに仲の良い友人に話した。
その偶然見かけた彼は、偶然にも友人と地元が同じ。
私がその彼と連絡を取り始めるのなんて、そう時間はかからなかった。

毎日のLINEや大好きなアーティストのCDの貸し借り、放課後は彼が部活を終わるのを待って一緒に帰る。
テスト期間は一緒にファストフード店で勉強しよう、そう約束をしていた。
この期間、体育祭からたったの2週間…このままテスト週間が終わればきっと付き合って、夏には甲子園の地区予選に応援に行って…なんて妄想を膨らましていた私。
自転車通学だった私たちは、田舎の田んぼ道を2人で並んで帰っていた。

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ある日の放課後、本当に偶然だった。
目の前から来たトラックを避けた彼が、田舎の田んぼ道の溝に自転車ごと消え去ったのは。
視界が合わなくなった私、動揺する彼。

ーー「私この人、好きじゃないかも」

怪我しなくてよかったし、ドロドロになったわけでもなかった。
でも好きも一瞬だった私の恋は、実る前に終わりを告げてしまった。
なぜ終わってしまったのか自分でもわからなかったけど、たった2週間の恋、それでも真っ直ぐだった、私の夏恋はあのたった30秒で消え去ってしまった。

あれから10年経った私が彼と再会したのは、あの時彼との仲を取り持ってくれた友人の結婚パーティー。
貫禄のある見た目になった彼を見て、あの時の懐かしい気持ちが蘇った。
それと同時に、あの時の逃げ出したくなった私の気持ちを思い出して、申し訳なさと恥ずかしさで顔なんて見られなかった。

次々と現れる新しい流行りや流行ワードで時代が目まぐるしく過ぎていく。
昨日まで流行っていたことも、今日になればまた新しいものが生まれる。
TikTokもInstagramのリール動画もなかった学生生活を過ごした私は今、やっとあの時の恋に名前をつけられた。

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好きの気持ちは年齢とともに変わっていくもの、あの時の私はきっとミーハーな恋を楽しんでいた。 そんなミーハーな恋を卒業した私は今でも、甲子園、高校選手権、最近では春高バレーや大学駅伝も欠かさず見る大人になった。

自分にはもう二度と訪れない、青春を謳歌する学生を応援したくなる気持ちと、終わりが来ることを知らないかのようにキラキラした眼差しを向ける彼らの時間が、一生続いてほしいとそう願う私がそこにはいる。

それでも学生時代の青い気持ちは、思い出すだけでむず痒くなる大人になってしまった。

夏になると思い出す、青く、眩しいほど、好きに真っ直ぐでいられた17歳の私。
たった2週間、されど2週間。
10年後の私は今、人生で一番幸せだと、
そう17歳の私に伝えたいな。