「♪打てよ~打てよ~打て打てよ~~…お前が打たなきゃ誰が打つ!!」
燦々と降り注ぐ太陽、真っ白なユニフォームに身を包んだ高校球児たち。テレビ越しの応援歌を聞いて、また今年もこの季節がやってきたな、と感じる。

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学生時代、運動部に所属していなかった私は、何か一つのスポーツに打ち込むという経験をしたこと無い。しかし、”スポーツの思い出”と言われると一番に蘇るものがある。それは高校野球だ。
吹奏楽部の部員として、毎年夏休みに差し掛かる頃には部室のカレンダーに自校の試合の予定を書き込み、自分たちのコンクールの練習そっちのけで野球部の応援へと駆け付ける――

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高校1年生の夏、”野球応援係”と名の付く3年生の先輩から「○日と○日は野球応援があるので、朝10時に○○球場に集合です」と言われるのと同時に、今年のレギュラー一覧とそれに対応した楽譜が配られた。
どうやら野球部の夏の甲子園地方予選に、毎年吹奏楽部が応援に行くのが決まりになっているようだ。

そもそも、ちゃんとした野球のルールすら知らなかった。この暑い中、屋外の集合か…しかもこの球場の最寄り駅、知らない駅だな……。
そんな私を横目に、同級生の友人は応援しているプロ野球チームのマフラータオルを首に巻き、楽器を持つのとは反対の肩に応援用のメガホンをかけ、キラキラとした目で球場へ向かう。
現地で合流した野球部の副顧問の先導に従い、私たちは吹奏楽部員用に確保された席へと向かう。楽器を出し、軽い音出しを終えようとしたタイミングで、手のひらサイズの紙に今日のスタメンの打順が書かれたメモが配られた。先輩たちに倣い、時間の許す限り譜面を打順に並べ替えた。

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そして試合が始まる。私たちの学校は先攻のようだ。序盤、私は目の前に出される画用紙にかれた選手の名前を追い、それに応じた曲を吹くのに必死。全然試合を見る余裕は無い。気付いた頃には8回裏が終わり、スコアボードは3-4。マフラータオルを首に掛けた友人が野球に疎い私にも分かるように、今の状況を分かりやすく説明してくれた。
そして迎えた9回表でなんと2点を返す。9回裏0点に抑え、この試合に勝った。その年は3回戦まで進んだところで負けてしまったが、こうして私はすっかり野球の応援にはまってしまった。

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2年後、3年生になった私は”野球応援係”の一人として、レギュラーメンバーのリストを見ながら必要な楽譜を集めていた。野球部から最近流行りの曲のリクエストが来れば、自分たちで必死に耳コピでメロディーを書き起こしたり、簡単な編曲に挑戦してみたりした。インターネットで強豪校の応援の動画を見ては、自分たちが持っていない野球応援のオリジナルをうらやましがったりもした。

肝心の地方予選はというと、まずは初戦に勝ち次の試合に進む。しかし2回戦の相手は過去に甲子園出場も決めたことのある強豪校。少しでも選手たちに力を届けられれば…と、力いっぱい演奏したが、全力の応援も虚しく負けてしまった。試合が終わった選手たちに、演奏よりも更に力いっぱい、大きな拍手を送った。

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普段スポーツ観戦をあまりしない私だが、高校を卒業した後も母校の甲子園地方予選を応援しに行った。今では地元を離れてしまったこともあり地方予選は中々見られないものの、それでも高校野球のニュースを見るとあの頃の気持ちの高まりを思い出す。
今年もアツい夏が始まる。