好奇心と焦燥感に突き動かされて。夏は「新しいこと」の季節だ

あ、そろそろかな。
空の青さが春より深くなり、少しずつ街の緑色が鮮やかになっていく。じんわりと気温が上がり、長袖のブラウスの代わりに、気に入っているロイヤルブルーのサマーニットに袖を通す。そんな時期になると、私の頭の中に先の言葉が思い浮かぶ。
私にとって、夏は「新しいこと」の季節だ。大抵は元旦のある1月か、「出会いと別れの季節」の4月かがその時期に選ばれがち。でも、私にとってそれは夏の役目なのだ。
夏になると、どうも私の好奇心とチャレンジ精神に火がつくらしい。夏に近づくにつれ、心がザワザワとしてくる。「そろそろ何かしたい欲が爆発するな」と予想が着く。
「どこか行ったことのない場所へ旅に出たい!」
「免許とか資格取ろうかな…思い切って転職とか?」
「服の系統、思い切って変えちゃうか!」
「やったことない経験とかしてみたいし、体験教室とか調べてみよう」
こんなことがひっきりなしに頭に浮かんでは消える。それを無視していると、アスファルトの上で真夏の陽射しを浴びて、ジリジリと乾いていくミミズのような気分になる。「この夏、なんの変化もなし?え、無理無理、耐えられない。現状維持とか停滞とか無理」と頭の中が余計に騒がしくなる。
私の中の何か…たとえば、魂とかが死んでしまうのではないか、と焦燥感に襲われる。好奇心とかチャレンジ精神とは言ったが、実態はもう少し強迫観念とかのそれに近そうだ。
そういうわけで、夏になると私は色んな「新しい」に出会いに行く。SNSや本で見た、行ったことのない街へ旅行をする。真夏が試験日になっている資格試験に申し込む。これまで体型がコンプレックスで選んでこなかったような服を買ってみる。友達を誘って、全くやった事もない体験教室に行ってみる。一人で知らないご飯屋さんやカフェに行ってみる。夜の町で雰囲気のいいバーを見つけてみる。作ったことない料理に挑戦する。挑戦の程度やお金やリスクのかかり方は様々だが、とにかく「新しい」何かを探し続ける。
今年はすでに色々やってみた。漢字検定に挑戦し、2級に合格した。服の系統を変えようと手に入れた、レトロ風のワンピースに身を包んで、銀座の老舗カフェでお茶をし、老舗ビヤホールでお酒を飲む…という体験をした。積立NISAをやってみた。フライパンで出来るパンを焼いた。転職や副業について、本や文書に携われるものはないか探してみた。
8月からもすでにいくつか挑戦することは決めている。出張ついでに東京タワーの実物を見に行こう。家にある積読本を持って、気になっていた老舗のカフェでコーヒーを飲もう。タコスを作って、ドリトスとコーラを買って、彼氏か友人、もしくは1人で映画祭をやろう。
今度浴衣を着るときのために、色に合わせたつまみ細工のアクセサリーを作ろう。付き合って8ヶ月になりそうな彼氏とお互い初めての誕生日を迎えるので、喜んで貰えそうなプレゼントを探そう。今まで友人関係も含め、出会ったことの無いような人だから、少し悩むけれど。
そうやってひと夏が終わる頃には、自分の雰囲気と講座の預金額は様変わりしている。心はそこそこ充実しているが、預金額はかなり寂しい状態だ。冬のボーナスに向けてしっかり働きながら、倹約しないとな…とちょっと喝を入れる。
学生時代からうっすらとあって、社会人になってハッキリと分かったことだが、どうも私は「ルーティン」というものがダメらしい。なんの変化もない毎日は、安定していて穏やかだけど、それが自分にとっては何だかしっくり来ない。同じことの繰り返しってつまらない。そういう自分の気質が一番強く出るのが、夏という季節のようだ。
だから、今年も色々やるつもりだ。そして、今年の夏は「夏だけではなく、季節関係なしに色々やってみる」を目標にした。普段は夏にばかり集めていたことを、全ての季節でやってみる。そうしたら、来年の夏の「新しい」はもっとずっと、面白いものになりそうな気がして。
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