真っ暗な夜に響く囃子の音。歴史文化に思いを馳せた夏

今、私が住んでいる場所は長い歴史のある土地で、国内でも有名なお寺があったりする。
観光地としても有名だし、駅前では外国人も多々見かける。
暮らす分には便利なお店も多いので、越してきた当初から「良い土地だ!」と感じていた。
そう、ここが「お祭りの町」ということに私はまだ気づいていなかった。
引っ越してすぐの夏、この町でも一番大きいお祭りが開催された。
それは3日間続くもので、大きな山車を大勢の人が引いて町を練り歩くものだった。
各町で装飾の異なる山車があり、山車の上には踊る人や笛と太鼓の奏者がいる。
日本らしいお祭りの音が鳴り響きつつ、参道を山車が移動していく。
お祭りの日、シフト休みを貰った彼と一緒に町へ繰り出した。
仕事でもカメラを使っている彼はお祭りの様子や山車を撮影しながら、「良い写真撮れた!」とニコニコしていた。
参道には屋台が所狭しと並んでいて、二人で楽しむお祭りにもワクワクが止まらなかった。
山車祭りの最終日、辺りが暗くなった夜のクライマックスは見応えがあるため、彼は「行ってくる!」とカメラ片手に出かけていった。
私は次の日も仕事だったのでお留守番していたところ、帰宅した彼は興奮状態で撮影した写真を見せてきて、「あなたも来年は見たほうが良いよ」と言ってきた。
翌年、引き続きこの町に暮らしていた私たちは、今回のお祭りも楽しむために計画をしていた。
次の日に仕事はあるものの、今年は私もクライマックスを見に行くと決めていたのだ。
お祭りの2日目はお互い休みだったので、昼間に通常のお祭りを楽しんだ。
缶ビールときゅうりの一本漬けを持ちながら歩き、射的や輪投げなどで大盛り上がりしながら夏を感じた。
3日目の夜、クライマックスの時間に合わせて家を出る。
少しずつ、囃子の音が近づき、提灯の灯りに導かれていく。
参道に着くと、ちょうど山車が坂を登ろうとしているところだった。
目の前でたくさんの人が綱を引き、大きな山車を動かしていく。
囃子の音が真っ暗な夜に響く。
音を聴いているだけで、なんだか日本人の遺伝子に刻まれたリズムが心地よく、身体が動き出してしまう。
山車を追いかけながら、じめっとした湿度とともに背中に伝う汗を感じる。
「あぁ、夏だなぁ」と思いつつ、こんな大きなお祭りを近所で見られることに幸せを感じた。
クライマックスは、三叉路の道に3つの町の山車が集まり、それぞれの踊りと囃子をぶつけ合うようなものだった。
シャッターを切りながら、この山車祭りがどれだけの歴史を積み重ねてきたのか、この町に住む人たちがこのお祭りをどれだけ大切にしているのか、色んなことに思いを馳せた。
日本でも有数のお祭りというものは、その土地に根付いているのだなと知ることができた。
私たちは外から来た立場だが、2年連続でこのお祭りを見ることができて良かったなと思っている。
もしかしたら、来年は違う場所に住んでいるかもしれない。
それでも、またその土地で新たな夏を感じるだろうし、きっと今まで住んできた土地に思いを馳せるだろう。
そうやって、夏の思い出を増やしていきたい。
かがみよかがみは「私は変わらない、社会を変える」をコンセプトにしたエッセイ投稿メディアです。
「私」が持つ違和感を持ち寄り、社会を変えるムーブメントをつくっていくことが目標です。
恋愛やキャリアなど個人的な経験と、Metooやジェンダーなどの社会的関心が混ざり合ったエッセイやコラム、インタビューを配信しています。