留学経験を活かせなくてもいい。人生に彩りを添える経験に意味がある

私が高校生で留学を決断した時、必ずしも100%前向きな気持ちで挑戦できた訳ではない。
英語は他の科目に比べれば好きな方。学年の中では中の上くらいの成績。家族と海外旅行の経験は少しだけあったけど、どれも幼い頃で、あまり覚えていない。
留学団体が公表している募集人数や、過去の留学人数とかを見てみると、とてつもなく多くの学生が留学に行っているような印象を持つけれど、実際私が住む田舎町にまで地域の単位を狭めてみると、少なくとも私の知り得る範囲では、高校生で長期の留学に行っている学生もいなかったので、実感は湧かなかった。
留学ってもっと特別なものだと思っていた。あまりにも漠然としたイメージの前で、海外生活にはそこまで強くの恐怖というか不安は感じていなかったのだけど、一方で、留学に行く「自分」というモノがふさわしいのかとか、何か立派なことをしてこなくては行けないような、志をなくしては行ってはいけないような、そんな不安は感じていた。
留学に行って何をしたいとか、留学から帰ってきたら、何をしたいとか。全然わからなくて、そんな状態で行っていいのかなという思いもあった。
留学を決断するにあたって、私の背中を押してくれた人がいる。まずは、留学イベントを紹介してくれた英語教室の先生。先生は女性で、英語教室の他にも色々と仕事をしていていつも忙しそうで、エネルギッシュな人だった。留学のきっかけを作ってくれたのはその先生。留学団体には地域ごとに支部のようなものがあり、そこにも属していた。
次に高校の校長先生。それまでは、ほとんどと言って良いほど接点のなかった校長先生。しかし留学の話が進んでいくと、校長先生もまた留学団体の関係者だということが判明。初めて呼ばれた校長室。校長先生は重みと優しい雰囲気を醸し出していた。校長室に呼ばれた理由は、高校自体には長期の留学制度がなかったからだった。
だから、そもそも留学を認めてもらえるのか、留学して帰ってきた時にどうするのか、その相談をしに行った。結果としては、留学も快く認めてもらい、また留学先の学校の単位をそのまま高校の単位として認めてくれて、卒業も出来るし、高校に戻って下の学年ともう一年一緒に学んでもいいとのことだった。
校長先生にまで留学の話が広がり、これは大事になったものだと、実感と、やはり私なんかが留学に行って良いものかと不安も大きくなってきた。
そして、最後に留学を決めた年、高校2年生の時の担任の先生。もともと良い先生だとも思っていたけど、留学の相談をしてグッと距離が縮まった。今思うと彼もまた英語の先生で、幸いなことに私の周りには留学をポジティブに、肯定的に捉えてくれる人が多かったのもよかった点かもしれない。日々の生活の中で、留学の話がどんどん進んで、留学が近づいてくる日々で、一番お世話になった、身近にいたのは彼だった。
彼の過去の教え子でも、留学にいった生徒がいたらしい。その彼女は今、銀行員をしているという話だった。その話が、留学に対する不安が日に日に大きくなる私の優しく背中を押してくれた。別に、留学に行ったからと言って、立派な仕事に就かなければいけないということはない。と彼のメッセージに聞こえた。
今ではきっと、昔よりもずっとネットワークも手段も、選択肢も開かれた中で、留学というものは、より身近でハードルも低くなっていて、行きやすくなっていると感じている。今や、大学では学部学科にとらわれず他国の留学生がたくさん学んでいて、日本にいても国際交流が出来るし、大学の制度として留学を進めている学校も多い。
留学へいって、大きな夢ができたり、つながりや大きなきっかけがあって、大企業や、外国で働いて、日本と外国の架け橋になるような立派な仕事をする人もいるだろう。私ももちろんそうなれたら良いなと憧れたし、出来るものならなりたいとも思った。でも、私は留学を通して、人生の軸となるようなものまでは見つけられなかったし、悲しいかな、それは今でも分からない。それでも、留学経験は確実に私の人生を豊かにしてくれたし、自分と違う世界、人、ものとの向き合い方も学んだ。
これから留学に行こうか迷っていて、もし帰ってきたら何か大きなことを成し遂げなきゃいけないとプレッシャーに駆られている人がいたら、そんなに立派になろうとしなくても、結果的に留学経験が直接関係するような仕事もしなくても大丈夫だと知って欲しい。決して人生にマイナスになるような経験では無いはずで。
きっとこれは、私がずっと欲しかった言葉。
留学経験が必ずしも活かせなくてもいいじゃないか。少し彩りが豊かになれば。小さな何かを見つけられれば、それだけで。
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