「こちらは、ディズニーランドのシンデレラ城のモデルにもなったドイツのノイシュバンシュタイン城です」

テレビから流れてきた声と同時に、画面いっぱいに広がる白いお城の映像が私の心を一瞬で奪った。まるでおとぎ話に出てきそうなその姿に思わず「自分の目で見てみたい」とテレビに話かけていた。

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その夢を現実にしたのは、大学3年生の夏である。

夏休みに3週間のドイツ短期語学留学があることを知り、迷わず申し込んだ。学生にとっては高額だったけど、アルバイト代を貯金して留学費用を準備した。

当時の私にとっては大きな挑戦であり、やりたいことのために努力できること自体がすでに新しい経験だった。

勢いはいいものの問題は語学だ。英語すら自信がないのに、ドイツ語は全くの初心者。「こんにちは」「ありがとう」の単語を覚える程度で、とても生活できる気がしなかった。

それでもとにかく行ってみるしかないと自分を奮い立たせ、初めての長時間フライトは不安をかき消すように寝ることで現実逃避した。

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到着して最初に驚いたのは、宿泊先が日本人学生ばかりの寮ではなく、イタリア人とドイツ人とのルームシェアだったことだ。「え?私、英語もドイツ語もイタリア語も話せないよ?」と一気に不安が押し寄せ、自室にこもるようになっていった。

数日後、ルームメイトの一人が「リビングにあまり来ないけど、家が嫌いなの?」と声をかけてくれた。最初は、部屋のルールが守れてないのかもと心配になったけど、表情や口調から心配してくれているのが伝わり、胸が温かくなった。

言葉は十分に理解できなかったけど、ジェスチャーを交えながらゆっくり話をしてくれた。その優しさに触れ、正しい文法や単語が分からなくても、伝えたいという気持ちこそ大切なのだと気づかされた。

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留学中盤には念願のノイシュバンシュタイン城を訪れることができた。目の前に立つ大きな白い城は、テレビで見た映像よりもはるかに美しく、まるで自分がおとぎ話の中にいるようだった。

あのとき「自分の目で見たい」と願った気持ちが現実となり、自分の心は達成感で満ち溢れた。私は自分のやりたいことを叶える力を持っているのだ、と強く実感した瞬間でもあった。

さらに、現地で仲良くなった学生と南ドイツからパリへ日帰り旅行に挑戦した。長距離移動で片道だけで約3時間半。無謀とも言えた計画だったが、「どうしてもエッフェル塔を見たい」という思いで実行した。

現地のドイツ人には「弾丸すぎる」と笑われたが、若さと勢いがあったからこそできた体験だった。ここでも自分のやりたいを叶える経験を増やすことができた。

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3週間の短期留学を終えて帰国したとき、私は以前とは違う自分になっているように感じた。

英語もドイツ語も話せるようになったわけではない。それでも、伝えたいという気持ちさえあれば人はつながれることを学んだ。自分のやりたいという衝動を信じて行動することが、どれほど自分を成長させるかも知った。

いちばん大きかったのは、海外に出ることへの恐怖心がなくなったことだ。今では旅行や新しい挑戦を楽しめる自分になっている。

あの頃の私にとって留学費用は決して安くはなかった。

しかし、あの経験が今の私の原点になっていることを思えば、勇気を出して挑戦して本当によかったと思う。もし迷っている人がいるなら、完璧に準備が整っていなくても勢いで行ってみる価値があると伝えたい。

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言葉の壁も不安も、行動したからこそ越えられる。留学は単なる語学の習得ではなく、自分の可能性を信じる力をくれる。

ノイシュバンシュタイン城に憧れて始まった小さな夢は、私に挑戦する勇気と伝える気持ちの大切さを教えてくれた。これからもあの日の気持ちを忘れず、自分のやりたいことに正直に挑戦していきたい。