私の母校は大学2年時に1年間の留学プログラムを必須としており、アメリカ、イギリス、ニュージーランド、ドイツ、韓国…など多数の選択肢から本人の語学レベル、学びたい学問、求める経験に基づいて選択できる。

ずっと長い間楽しみにしていた留学。この日のために勉強も荷造りも計画的に進めてきた。

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そんな最中、コロナウイルスによる非常事態宣言が発表され飛行機を経由した移動の規制が始まった。いざ留学が始まる2、3日前だった。どうしよう、このまま留学が中止になってしまうのか…?と不安を抱えていた中、留学コーディネーターが渡航日を少し早めた出発に舵を切った。

あと数日遅れていたら飛び立つことができず、私の留学への夢もしぼんでいたかと思うと、当時の留学コーディネーターの英断には感謝の気持ちでいっぱいだ。

さて、留学先であるアメリカに到着してからは、外を歩いても、スーパーに買い物に行っても、みんなマスク。日本やアジア圏では病気予防の時、乾燥を防ぎたい時、なんとなくという理由でさえマスクを着けると思う。だが、アメリカでは本当に体調不良の時にしかマスクを着けないと聞いていた。さすがのアメリカもマスクを着け始めたか…というのが正直な感想だった。 

コロナ真っ只中ともなると、授業はオンライン、キャンパス内は立ち入り禁止、クラスメイトや先生とも対面で会えない、プログラムに含まれていたインターンシップも取り消しになった。そんな不運なことが立て続き、中には「もう帰国したい」「日本でオンライン授業を受けた方がましだ」という考えに至る仲間も出てきた。気持ちはわからなくもなかった。

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だが、私はこの留学体験をとても「レアで良いもの」だと感じていた。感染病が流行るなんて数年に一度。その偶然に選ばれた奇跡。その大事な期間を未知の土地で過ごせる非日常感。きっと意味があるし、コロナ渦だからこそ味わえることや楽しみを見つけていこうとワクワクした。

「できることが少ないから…」と部屋に籠ることは容易だった。だが、そんななか外に連れ出してくれた友達、色んな観光スポットへ連れて行ってくれた現地留学コーディネーター、お喋り会を開催してくれたクラスメイト。
各々が何かできることはないかと考え、実行し、その想いが人と人を繋いだ結果、想像した以上のかけがえのない日々を形成してくれた。

こんなにも、人のために動いてくれる温かい人たちがいるではないか。そんな人たちの前で、暗い顔をして下を向くなんて、ましてや「帰りたい」なんてとても失礼ではないか。私はこの状況をすべてひっくるめて受け入れ、楽しめる人間でありたいーーそう思った。

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今でも、人と留学の話になると開口一番に『コロナ渦に?大変だったね~』と同情を込めたニュアンスで言われる。そして次に私が言うのは、「レア体験ですごく楽しかったよ!」

私は、人は楽しいこと、素敵なこと、居心地の良いことだけに囲まれていると、当たり前の幸せを見逃してしまうのだと思う。そこに、制限、困難、不自由さ、やるせなさが加われば、ただ側にある幸せに気付き、改めて大切にできると思うのだ。

この先どんな景色を見ようとも、どんな経験をしようとも、この留学体験はずっと忘れないと思う。ずっと、人の温かさを学んだ素敵な経験として心に飾っておこうと思う。私の留学の夢を応援し送り出してくれた家族、楽しいことをたくさん企画してくれた友達、限られた条件の中で可能性を探してくれた現地の方々。そして、一日一日を楽しく過ごすことを諦めなかった私。私の人生観を前向きに変えてくれたすべての方に感謝だ。