「将来の夢は?って聞かれるのが嫌い」思わずはっとした彼女の一言

「目を星に向け、足を地につけよ」アメリカ第26代大統領であるセオドア・ルーズベルトが残した言葉である。
この言葉には「星」という夢や目標を見失わず「大地」という人生を、一歩一歩着実に進んでいくことの大切さが込められてる。
しかし、ただ「大地」に立っているだけでは、永遠に「星」に辿り着くことはできない。「星」に向かうための「翼」を育てる時間が欠かせないと思う。夢を持つことも、夢を持つ前に「翼」を育てることも、どちらが先でもいい。そう気づかせてくれたのは、ある女子生徒の一言だった。
私は今、中学生に向けて「キャリアデザイン」の大切さを教えている。ここでいう「キャリア」とは職業に限られず、人生そのものの歩みや生き方を指している。
「キャリアデザイン」とは「理想の生き方をデザインし、その実現に向けて自ら動くこと」であり、社会の状況が目まぐるしく変わり、将来が不透明と言われる現代では、自分軸や価値観をしっかり持って、人生の選択をしていく必要がある。
そのことを、未来を担う中学生に伝えたくてこの仕事を選んだ。中学生に向けてキャリアデザインの大切さを話す時は「あなたの人生はあなたのもの。自分のペースで未来を描いていくんだよ」と伝えている。
今年の春、一人の女子生徒からある話題を投げかけられた。
「私、将来の夢は何?って聞かれること嫌いなんです」
「キャリアデザイン」の大切さを伝えていく中で、将来の夢に触れたことも多々あった。それらを否定するような直球を投げられ、私は言葉に詰まった。
この生徒は成績優秀で、委員会にも積極的に取り組んでいた。校内行事でもリーダーシップを発揮し、全校生徒の前で堂々と話す姿もあった。そんな優等生の一言、私は理由を尋ねた。
「未来ばかり大事にして、今の自分を見てくれてないと思うから。いつか夢を見つけたときのために、今こんなに頑張っているのに、それを無視された気がするから」絞り出すような訴えを聞いたこの時、私はルーズベルトの言葉を思い出し、夢を持つことも、翼を育てることも大事で、どちらが先でもいいということに気が付いたのだ。
この生徒は、今踏みしめている「大地」をしっかり歩いて、経験によって「翼」を育てていた。学校生活に一生懸命取り組んで経験を積む姿勢は、いつか将来の夢を見つけたときのための事前準備だったのだ。
「大地」を歩く過程で、いつか自分だけの「星」を見つけた時、この生徒が持っている「翼」なら、まっすぐ、強く飛べるだろう。
将来の夢を先に聞いてしまいがちだが、今懸命に取り組んでいることにも目を向けて、翼を育てる過程を見つめることの大切さに気づかされた。
一人ひとりに人生があるということは、一人ひとりの「キャリアデザイン」があるということなのだから、夢を持っていても、持っていなくても、どちらでもいいのだと思う。
誰一人として同じ人生はないからこそ、自分のペースで自分らしく生きることが尊いのだ。
「星」に向かうのか、飛ぶための「翼」を育てるのか、果てなき「大地」を歩むのか。それらを自分で決められることこそが、星のきらめきに負けない、人々が持てる輝きなのだと思う。
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