海外旅行もしたことがなかった私が、突然海外に興味を持ったのは大学に入ってからのこと。
高校までとは違う第二外国語を学び始め、いつしか『自分の語学力がどこまで通用するのか、外国で試してみたい』と思うようになっていた。

そんなとき、大学のプログラムで夏休みだけの交換留学制度があることを知った。
行き先は中国とニュージーランド。
第2外国語で中国語を学んでいた私は、中国行きを決めた。
授業は4週間、週末には現地大学生との交流や自由時間も十分楽しめるプログラム。勉強だけでなく、観光も楽しめると思ったことが大きな理由のひとつとなった。

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初めての海外に、私はすっかり浮かれていた。
言語の本場で語学を学べるなんて、なんて素晴らしいんだ!
中国語が流暢になって帰国できるだろうと、根拠のない自信に胸を膨らませていた。

その時、なぜそんなに自信たっぷりだったか、今でもわからない。
若かったこともあり、今思えばずいぶん安直な考えだった。現地での経験を最大化するためには、できる限り予習をしてから向かうべきだった。
でも当時は何も考えず、学校の授業以外で中国語に触れる機会はほとんどないまま、意気揚々と中国に降り立った。

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授業が始まって2日ほどは、大学の授業の復習のような内容でスムーズに進んでいた。
しかし、徐々に高度な内容を扱うようになると、途端に難しく感じられるようになった。

自分の発音が現地の先生に全く伝わらないとわかると、自信をなくした。
何度練習しても理想とする発音ができず、自分は中国語には向いてないと感じるようになった。

毎日の予習や復習も苦痛になり、自分はなぜ中国にいるのかわからなくなっていった。
語学の壁にぶつかることこそが、現地での学習の醍醐味だというのに、19歳の私にはそれが理解できなかった。

すっかり意気消沈した私は、帰国してきてから中国語の学習をすっかり辞めてしまった。
その代わり、英語の学習を頑張るようになった。
通用しない自分を、どこかで悔しいと感じていた。
小学校から学習している英語なら、もっと上達できるのではないかと思っていた。

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そんな私は現在、アメリカに住んでいる。
アメリカに住んでからも、同じように自信を失う経験は何度もある。
渡米から3年以上ったにもかかわらず、英語がうまく話せず恥ずかしい思いをしたり、言葉に詰まってうまく会話が続かなかったりと、言語の壁を感じている。

今でも、週に1回のオンライン英会話と、毎日のアプリでの単語学習は欠かせない。
語学学習には継続的な努力が不可欠だということを、中国への短期留学で身をもって体験したからだ。

あの時に学んだ中国語が、全く生きていないというわけではない。
アメリカに住んでいると、見た目が似ている中国出身の方と距離が近くなることが多い。
そんなとき、中国に行ったことがある話をしたり、単語レベルでも中国語を話したりすることは、仲良くなるきっかけの1つになる。
私は、中国での短期留学の経験が、今の自分の糧になっていると確信する。

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語学学習は、自分を裏切らない確かな財産である。
今は、あの時短期留学をしていてよかったと、当時の自分を認めることができている。