ジェットコースターのような恋を降りた先で出会った、好みじゃない彼

"恋"ばかりしてきた。
では、今のこれはなんなのかと聞かれたら、"愛"と呼ぶにはやはりまだこそばゆい。でも、"いとしさ"と言ってみたら近いかもしれない。
恋に恋して、常に恋をしている状態を求める。そんなかつての私が楽しんでいたのは、ジェットコースターのような興奮だった。振り回されて、落とされて、でも不意に持ち上げられて。そんなスリルが堪らなかった。最も「生」を感じられる体験だった。
何度目かのジェットコースターから振り落とされた時、しかし、さすがに私は疲弊していた。どうしようもなくこっぴどい振られ方をしたのだ。
そんな時に出会ったのが彼だった。
優しくて、暖かい人。でもどこかに空虚さがある人。
全然好みじゃなかった。世間一般的には整っていると言われるその容姿も、危険な香りがしない雰囲気も。全然振り回してくれなさそうで。
でも、とにもかくにも私は疲れていたのだ。だから、ちょっとこの、無害そうなイケメンに癒してもらおうか、と立ち寄ることにした。
出会ってから2週間の女が、自分の家で酒をあおって失恋話に号泣している様を見ても、「あの人は本当におもしれー男だったけど、あの人にとって私はつまらねー女だったってことだ。それが悔しい」と言う私に対して「なんで?振られてこんなに号泣してくれるような人、僕はおもしろいと思うよ」と言ってくる。
一緒に映画版のモテキを見て「結局男はみんな長澤まさみを選ぶんだ。こんな風に泣きながら縋ってくる麻生久美子じゃだめなんだ」と言えば、「僕は麻生久美子の方が好きだなあ」と笑う。
ChatGPTのように次々と欲しい言葉をくれる彼に、どんどんと沈んでいった。
でも、好きじゃない。
だから、いいのかもしれない。
今までだったら絶対に選ばなかった。恋はできないけど、安心をくれる人に、恋をしないからこそ身を預けられた。
好きじゃない。でも、大切だ。と思えた。
そんな彼と交際を続けて、早2年半が過ぎた。そこまで誇れる数字でもないが、私からするとこんなにも長い間、飽きずに一人の人と向き合い続けているのは生まれて初めてのことである。
今もまだ、恋だとは思えない。でも、世界で1番大切な存在だと思う。
彼が私を大切にしてくれるから、こんなに素敵な人に大切にされる私のことを、私自身も大切にしなくてはと思うようになった。
タバコを辞めたし、酒もほどほどになった。奔放さが目に余る友人とは価値観が合わなくなり、安定志向でつまらないと思っていた友人と話が合うようになってきた。
この冬から同棲を始める。ゆくゆくは結婚もすると思う。
それでも、ジェットコースターは楽しかったと今でも思う。
だけど、ずっと乗っていられるものではなかった。いずれ三半規管も弱ってくるのだし。いつの間にか観覧車やメリーゴーランドがちょうど良くなって、最後には遊園地自体に寄り付かなくなる。
恋中毒だった私も、恋をしない生活が今は心地いい。
ジェットコースターを降りた先には、幸せがあったのだ。
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