「即レス」に追われた日々。あの頃の私は映画館にも行けなかった

「今日の数値は?」
「今週のKPI、あと何パーセント?」
朝起きてから夜寝るまで、私は常にスマホ、iPad、パソコンと共にいた。スマホで電話をかけ、iPadで顧客とのLINEやメールのやり取りをし、パソコンで、電話をかける顧客リストと、その内容を確認及び更新する。
大学1年から始めた長期インターンは、人材系のベンチャー企業。スピード感と成長機会に惹かれて飛び込んだものの、日々の業務は想像以上にハードだった。Slackの通知音、Google Analyticsの数字、上司からのDM……スマホは、私の“成果”と“評価”が詰まった箱だった。
スマホが鳴れば、すぐに反応しなければならない。誰よりも早く反応し、上司よりも先に数字を見て、必要があれば修正案を出す。たった1時間の対応の遅れが、「仕事が遅い」という評価に直結することもある。そんな職場だった。
「デジタルデトックス」だとか「スマホ断ち」だとか、そういう流行の言葉に少し興味は湧いた。が、すぐに思った。「私には無理だ」。やってみよう、ではなく、真っ先にそう思ったこと自体に、自分でも少し驚いた。
フレックスタイム制だったし、別にブラック企業だったわけでもない。でも、たった一日、仕事の通知を切ることすらできなかった。映画館に行くことさえためらわれるようになった時、さすがに私はセルフブラックし過ぎだなと呆れた。それでも、私は通知を切らなかった。「万が一、クライアントから連絡が来たら?」「チームで何かトラブルがあったら?」「数字が大幅に落ちてたら?」想像だけで、心拍数が上がった。
でも、デバイスから離れられないのは「仕事の責任」や「連絡の即時対応」という表面的な理由だけではない気がした。もっと根本的に、スマホを通じて“自分の存在価値”を確かめていたのかもしれない。 スマホを手放すことは、数字から、上司から、仕事から、そして「誰かから認められている」という感覚から切り離されることだった。
通知が鳴れば、「自分が必要とされている」と感じる。返信をすぐすれば、「信頼されている」と思える。数字が伸びていれば、「自分は役に立っている」と思える。でも、それがない自分は……。
スマホから離れようとして離れられなかった24時間、どころか1年間。それは、「私は誰のために働いているのか」、「自分の価値は何なのか」を見つめるきっかけになった。そして今もなお、あの時と同じようにスマホは私の手元にある。けれど、あのインターンを辞めた日から、私のスマホは全くならなくなった。サイレントモードにしたのだ。
一日に数回、通知をまとめて見る。返信もすぐにしなくてもいい場合は、後に回す。「即レス」ではなく「確実なレス」さえすればいい。今はそう思える。
無我夢中で目標にまっすぐ突き進んでいた、あの頃の経験はかけがえのないものだったと思う。長期インターンをやっていたころは、しんどかったけれど、やって良かったという結論にいつも辿り着く。でもまあ、あの頃に戻りたいとは思わないけど。映画館に向かいながら、そう思う今日この頃です。
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