2泊3日、スマホなしの修学旅行。感情バトルとルール

24時間スマホから離れてみた体験記を書こうとしたとき、真っ先に、中学生の頃の修学旅行の様子が頭に浮かんだ。
当時はあまり学校に通えていなかったため、心の底から修学旅行に行きたいと思わなかった。だが親に迷惑をかけたくなかったので、渋々行くことにはなったが、1日目の登校日から既に精神が拒否を示していた。
行き先は京都・奈良方面。2泊3日の旅である。歴史的建造物や美味しいものを食べられるのは嬉しかったが、修学旅行ではない別の予定をたてて行きたかったというのが本音だ。スマホの持ち込みが禁止されていたので、3日間ネットに触れないというこの環境が、余計に心を重くさせた。
先生からのルール説明を聞き、バスに乗り込む。流れているDVDに目を通していると、あっという間に駅に到着していた。ここから新幹線に乗り換えて京都まで行くとのこと。周りが楽しそうに会話している中、私だけが何もできずにただただ下を見ることに集中していた。昔から人見知りで集団行動が苦手だった私にとって、この空間は地獄に等しかった。…あぁ、スマホ触りたい。推しのSNSだってチェックしたいし、ゲームのログインボーナスも受け取らなきゃいけないのに。どうして私は今から、好きでもない人たちと旅に出なければいけないのだろう。どうしてスマホに触れないのだろう。考えたところで何の戦力にもならないのに、ぐるぐると回っていく感情に腹が立った。
京都に着くと、そこにはテレビでしか見たことのないような景色が広がっていた。京都駅、こんなに大きいんだ。地元の駅とは比べ物にならないほどの世界に、ほんの少しだけ胸が躍った。旅は班での行動だったので、班長の話さえ聞いていれば何とかなった。歴史のある建物、和を強調した可愛らしいスイーツ、様々な場所から聞こえてくる京言葉…。普段の世界とはまた違う景色が、とても新鮮に思えた。
1日目の夜はかなり体がヘトヘトだった。朝早い時間から大移動して、なれない土地に辿り着き、重たいリュックを抱えながら沢山歩いたその日は体が鉛のようになっていて、気づけば布団に沈んでいた。
2日目は奈良での班行動。奈良公園を中心に歩き回った。どこを見ても鹿がいて、何だか凄く心が癒されたのをよく覚えている。私は未だにスマホが手元にないことを憎んでいた。貴重な経験なのだから、こういうのは動画に撮っておきたかった、と。
東大寺の方を訪れたとき、1日目の朝、一緒に学校へ登校した他クラスの友だちと偶然会った。その子は私の肩に手を置き、「結構辛いかも…」と言葉をこぼす。彼女は私と同じで、修学旅行に行きたくないと言っていた子の1人だった。私も楽しいと思うところはありつつも、あまり人と関われないのは辛く感じていたので、彼女の気持ちは痛いほど分かった。
昨日に比べて体の負担が少なかったので、そこまで疲れが出なかった。だがずっとスマホを触りたいという欲が私の心を支配していて、そこまで良い気分にはなれておらず、むしろ苛立ちの方が勝っていた。明日になったら家に帰れる。つまり、スマホに触れる。あと少しの辛抱に期待しながらも、気づけば瞼を閉じていた。
3日目は体験授業を行った。湯のみに好きな絵を描いていく体験をし、ひたすらに筆を走らせた作品はまぁ悲惨なものだった。私には絵心がなさすぎる。京都まで来て黒歴史を作るのかと、軽くブルーな気持ちになった。
午後になり、いよいよ帰る時間がやって来た。新幹線とバスを乗り継いだその先には、ずっと使いたくて仕方なかったスマホが待っている。母のために買った手土産を揺らしながら帰りに向かった。
約3日間、スマホのない生活を過ごしてみて、人生の中でどれほどスマホを欲しているかがよく理解できた気がする。だが、何とか耐えられたのは"持ってきてはいけない"というルールがあったからに過ぎない。そのルールがなければ、無意識に見てしまうことも多かっただろう。貴重な経験もできて楽しいことも多くあったが、やはりどこかしらに恐怖心はあった。ルールがあれば、スマホのない生活だって可能なのだ。
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