社会人1年目の私は、マッチングアプリで公務員の彼と出会った。3回目のデートで彼に告白され、週末ごとに車で登山や温泉へ連れて行ってもらうようになった。山の風を感じながら歩く時間も、山頂で一緒にすすったカップラーメンのぬくもりも、彼の細やかな気配りも、すべてが特別だった。

重いリュックを進んで背負ってくれたり、後ろから背中を押してくれたり、優しい言葉をかけてくれたりする優しさに、私は自然と笑顔になっていった。温泉は苦手だったけれど、彼とだったらと渋々ついて行った。

また、共通の「ラーメン好き」という趣味が二人を近づけた。新しいお店を見つけるたびに写真を送り合い、「次はここに行こう」とデートのプランを練るのが楽しかった。彼は私が好きだと言った醤油系から豚骨、つけ麺まで幅広く試してくれて、食後には感想を聞いてくれた。

誕生日には私の好みを覚えておいて、好きなブランドのタオルや名前入りの文房具をプレゼントしてくれた。仕事で落ち込んだ日には励ましのメッセージを送ってくれて、「君なら大丈夫」と背中を押してくれた。また、私の悩みを解決する本までプレゼントしてくれた。彼の思いやりはどこまでも温かく、私は自分が大切にされていると強く感じていた。

◎          ◎

ところが、次第に私自身のズボラな生活態度が気になり始める。普段は化粧もしない、洗顔もおろそか、髪も乾かさず寝るような私に、彼は「もっと身だしなみに気をつかってほしい」と小さな注文を重ねた。

最初は「余裕があるときだけね」と受け止めていたが、そのたびに「自分はこれでいいのだろうか」という不安が心に積もっていった。化粧のプレッシャーは、いつしか彼への愛情より重く感じられるようになった。

ある日、彼から「話したいことがある」とのメッセージが届き、私は直感で別れ話だと悟った。勇気を振り絞ってLINEでの対話をお願いすると、彼は「化粧をしない」「清潔感がない」「集合時間に遅れる」と淡々と理由を列挙し、あっさりと距離を置く意志を示した。

予想はしていたものの、言葉として突きつけられた瞬間、胸がギュッと締めつけられ、涙があふれた。自分が否定された現実を受け止められず、しばらくは生活リズムも乱れ、何をしていても虚しさだけがのしかかった。

◎          ◎

別れた後、私は再びアプリで何人かと会ってみたが、心からときめく相手には出会えず、「結婚したい」という思いさえ薄れていった。友人の結婚式では幸せそうな笑顔に感動しつつも、「自分には恋愛も結婚も向いていないのでは」と悲観的になった。

そんなとき、ふと「仕事だけは裏切られない」と気づき、私は業務に打ち込む決意を固めた。難しい業務を乗り越えるたびに湧く達成感、それを共に同僚の励まし、日々刻まれる実績すべてが私の自信を支えてくれた。やがて「恋愛より仕事を続けたい」という思いが強くなり、私は自分の選択に胸を張れるようになった。

今振り返れば、公務員の彼と付き合ったのも、どこか「世間体」を気にしていた自分がいたからだとわかる。外見や体裁を求められたことで傷ついたけれど、その経験を通して「自分らしさ」を見つめ直せたのは大きな収穫だった。あのつらい恋の先にあったのは、失恋の痛みに打ち勝つ強さと、自分の生き方を自ら選ぶ勇気だった。

もしまた誰かを好きになっても、化粧や装いではなく、自分の心と向き合うことを忘れずにいたい。つらい恋の先には、必ず新しい自分が待っている。そう信じる小さな勇気を、私はこれからの人生の支えにしていく。