私はまぶたがすごく重い。どのくらい重いかと言うと、目の幅の2倍瞼があり、アイラインを引いても埋もれてしまう。泣いたら3倍にまで膨らみ、目が無くなってしまうのだ。

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小学5年生の頃、近所に住んでいた1個上の男の子にこう言われた。「お前目つき悪いな」衝撃だった。普通にそちらを見ただけなのに、睨んでいると思われたのだ。そこで初めて自分の目つきが悪いことを知る。

どうして目つきが悪いのか、色々考えた。目が細いから?一重だから?一番の理由はまぶたが重いことだった。ぷっくり膨れ上がっているその様が、眉毛の全剃りをしているかのような存在感なのだ。

中高生の頃、瞼の重さを隠すために二重にしてみようと、ドラッグストアで購入したアイプチやアイテープを使ってみた。結果は惨敗。20分後にはぷっくりと重い一重に戻っていた。「こりゃだめだ」諦めてぷっくり一重のまま過ごした。

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当時の気持ちを思い返すと、あの時近所の男の子に言われていなかったらどうなっていただろう。幸せだっただろうか。自認がないままたくさんの人にからかわれて傷ついていたのだろうか。色々な考えが駆け巡る。

時は過ぎて23歳の夏。趣味つながりで、メイクを楽しみたい同世代の男の子3人に出会った。皆それぞれ男性メイク、女性メイクと好みは分かれており、個性が光っていて魅力的だった。3人のうちの2人が悩んでいたのが、“一重でまぶたが重いこと”で、メイクを始めた中学生のあの頃を思い出した。私は「アイプチはこうやって使うんだよ、まぶた重いから私はすぐ取れちゃうけど」そんな話をした。

私は気づいた。二重である意味はある?今の私で充分かわいいのでは?

男の子2人がアイプチに苦戦している中、私は諦めの境地に入っていた。これはこれで、私のアイデンティティだよな。そう思えるようになった。どうして気にならなくなったんだろうと考えてみたら、1番は費用面。アイプチやテープ1個に約1500円、おそらく10種類は試しただろう。2、3回試して駄目だった、となるのでもったいないと思うようになった。

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もうひとつは「まぶたが重くても目つきが悪いと言われなくなった」ここにあると思った。第一印象が「優しそう」「物腰柔らかそう」「温かい雰囲気」そう言われることが増えた気がする。昔より人の痛みを知り、性格も丸くなっているからだろう。

同じ時期に、職場でパワハラや過労があった。取材のために架電をするも詐欺や勧誘だと思われてガチャ切りされたと思ったら、同じところに説得できるまでかけ続けろと言われたり、タスクを丸投げされていっぱいいっぱいになっているなか、上司は隣で映画を見ていたり。1日最低16時間、長いと連続32時間働く日もあった。

テレビ業界だから仕方ないと思ってはいたものの、体力的にも精神的にも限界が来た。自宅に帰ってナレーション原稿を書いている時、激しい吐き気に襲われ、トイレに駆け込んだ。

気付いたらぷつんと糸が切れたかのように枕を濡らす夜。寝て起きたら目が腫れすぎて開かなくなっていた。出社してまぶたの異変に気付いた課長。担当番組を変更させてくれるとのことだった。

ここで初めて、まぶたが重くて助かった。そう思った。様々な人と出会い、この重いまぶたを一生大事にしたい、そう思える日が来るまでに20年かかったが、これからも「ありのままのわたし」でいたいと思った。