掲示板に貼られた「騒音」への苦言。この社会は子育て世帯に厳しい
エレベーターの掲示板に貼られた文書を目にして、これは間違いなく我が家に対する苦言だと確信した。「日常生活の騒音に関するお願い」と題目がついたその掲示物には以下のように記されていたのだ。
居住者の皆さまへ
最近、騒音に関する相談が管理組合に寄せられています。マンションは構造上、思っている以上に上下左右の住戸に音が伝わっているものです。
生活スタイルや環境はそれぞれであり、生活する上で音の発生は必然ですが、集合住宅で生活していることに留意した上で、ルールを守り、お互いに配慮していただきますよう、ご理解とご協力をお願いいたします。
騒音の事例
・居室やベランダを走り回る足音
・楽器の演奏
・椅子やソファから飛び降りる音
・家具を移動させる際のすり音
以上
騒音の事例はこれらに限らない。他にも挙げられていた。しかしそのほとんどが我が家で発生する「騒音」だと自覚した。
なんせ我が家には3人の“モンスター”たちがいるのだから。
このマンションではさまざまな形態の世帯が生活している。
離れて暮らす子どもと孫がいるというシニア世代のご夫婦。
子どもはおらず、猫と穏やかに暮らす働き盛りのご夫婦。
小学生から高校生の子どもたちがいる家庭。
そんな環境で私は夫と3歳、1歳、2ヶ月の子どもたちと暮らしている。ここに越してきて2年、同年代の未就学児を育てる人たちを見かけたことがない。未就学児が住んでいるのはどうやら我が家だけのようだ。
まだまだ幼い子どもたち。生後2ヶ月が経ったばかりの次男は生活リズムが整っておらず、朝昼夜問わず目覚めては泣く。
長男と長女のモンスターレベルは最強。2人で仲良く遊んでいたかと思えば突然ケンカが始まり、泣き叫ぶ。太鼓や鉄琴のおもちゃをたたきながら童謡の歌唱大会が開催される。
子育てしてみて学んだことなのだが、子どもは歩くことを知らない。喜びや楽しさを体で表現するときは思わず飛び跳ねる。室内屋外問わず、走り回ってはジャンプして…。
あの貼り紙に書かれた「騒音」の大半は我が家で発生している音ではないか。
「こんにちは〜」とエントランスやエレベーターですれ違ったときに挨拶を交わす居住者の中には、子どもがいる世帯ならではの音や声を「騒音」と捉えて、こうやって管理組合を通して苦言を呈する人が潜んでいるのか…。
2024年の日本の出生数は史上最低の68万6061人。1899年の統計開始以降、初めて70万人を切ったことで一大ニュースになった。その人数は今後も更新される見込みだという。
日本は少子化に歯止めがきかなくて、人口減少とともに経済が衰退し国力が落ちていく。もはや子育て世帯がマイノリティーになりつつある。
次の時代を作っていくのも、私たちの世代を支えてくれるのも子どもたちのはずなのに、世間は子どもや子育て世帯に厳しいだなんて、世知辛い。
たしかに、子どもがいる人生を選択したことで手放したことはたくさんある。仕事は簡単に辞められても子育てはそう簡単にはいかない。生活や教育にかかるお金も必要だ。
でも、それ以上に得られたことがある。「自分よりも大切な存在」に出会えたことだ。私ひとりで生きるより豊かで幸せな人生を送れていると実感している。
ママだからできないことはない、ママだからこそできることがある。
そう教えてくれたのは間違いなく子どもたちだ。
子どもたちと生きる人生を送っているから、世の中の不便や不自由に気づき、課題が見えるようになった。些細なことにも感謝の気持ちが芽生えた。日常にあるたくさんの幸せに気づけるようになった。
どうかこの世界が子どもや子育て世帯に対して寛容な人たちで溢れますように。
日本の希望である子どもたちが生きやすい社会になっていきますように。
そう願って私は今日も子どもたちにあらんかぎりの愛情をたっぷりと注ぐ。

かがみよかがみは「私は変わらない、社会を変える」をコンセプトにしたエッセイ投稿メディアです。
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