私がウェブ上に文章を書き始めたのは、4年前からだった。きっかけは、付き合っていた人に振られたことだった。

コロナ禍直前に出会い、コロナ第一波が落ち着いた頃に付き合い、第二波がやってくる頃に振られて終わった。そんな短い付き合いだったにも関わらず、私は彼に対してものすごく腹が立った。

28歳という年齢もあり、次に付き合う人は結婚を考えられる人と決めていた。そのことは彼にも伝えていたし、彼も「結婚前提に付き合おう」と告白のときに言ってくれていた。別れたいと言われたときは「お前の『結婚前提』はそんなぬるかったんかい!」とブチギレ、目の前で彼の連絡先とあらゆる履歴、デートの写真を全削除した。彼はドン引きしていた。

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落ち着いたら泣けて……くるはずもなく、私はそれから怒りの日々を過ごした。といってもどうすればこの怒りが落ち着くのかわからなかったので、仕事を詰めまくり残業しまくった。

怒りの末にでた結論は、「いつか街中でばったり再会してしまったときに『嗚呼、俺はなんて良い女を振ってしまったんだろう』とめちゃくちゃに後悔させてやりたい」だった。そして、-10㎏のダイエットを始めた。-10kgにした理由は、なんとなく10kgも痩せたらすごいし、何かが変わるんじゃないかと思ったからだった。ダイエットをしていくうちに、メイクやファッションにも興味が出始め、当時勤めていた会社の取引先に「本を読んで中身も磨きなさいよ」と言われたので読書も始めた。

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ダイエットを始めて約1年半後、私は目標だった-10㎏を達成した。もちろん体型はすっきりしたし、周りからの評判も良くなった。でも、街中で元彼とばったり、なんて偶然は訪れなかった。

私はまた元彼に腹が立った。「お前を見返したくて綺麗になったのに、なんでそれをお前が知らないんだよ!」と。勝手にダイエットしておいて、我ながら理不尽すぎる。

あいにく、別れ際に勢いで元彼情報はすべて削除してしまっていたので、彼に直接この成果を伝える術はない。そこで私が思いついたのは「文章にしたためてネットに載せれば、何もしないより発見してもらえる可能性があるんじゃないか」だった。

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私が文章を書き始め、せっせとネットに載せるようになったのは、こういった経緯だ。
未練はないつもりだったけれど、改めてこう書いてみると未練というか、執着がめちゃくちゃすごい。悪い人ではなかったけど、そんなに良い男だったか?

執着心から始まった自己満足だったが、閲覧数が増えたり、コメントがついたり、「私の文章が誰かの心を動かしている」事実が嬉しくなっていった。書くことがどんどん楽しくなって、好きになった。こんな世界は、あの時の彼への執着心がなければたどり着けなかった。振られたときは、数年後にこんな楽しい「書くこと」に出会えているなんて想像もできなかった。

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書き始めてから1年が経った頃、知らない連絡先から「元気?」とショートメッセージが送られてきた。私が執着し続けた、元彼だった。彼は私の連絡先を残していたらしい。

ダイエットの成果を見せつけたかった私は彼に会い、別れてからのあれこれを彼に話した。

振られたことにめちゃくちゃ腹が立って、結果ダイエットをして10㎏痩せたこと。痩せたけどそれがあなたに伝わらないことにまた腹が立って、ネットに文章を載せれば何もしないより見てもらえる可能性があるんじゃないかと文章を書き始めたこと。それが想像以上に楽しくてまだ続けていること。結果的に、ライターの仕事も少しずつ始めたこと。

そして「当時はめちゃくちゃ腹が立ったし、なんやかんやで悲しかったけれど、今が楽しいから振ってくれて良かった。だから、振ってくれてありがとう」と伝えた。
彼は「まぁ、俺は何もしてないけどなぁ。頑張ったの、彩香ちゃんやし」と言っていた。

いやいやいや! 何もしてなくないやん、あんた、私のこと振ったやん! 振られへんかったら今頃私はあんたと結婚して、もしかしたら子どももおったかもしれへんやん! とか思わなくもなかったが、「確かにそやなぁ」と笑っておいた。ブチギレなくなったあたり、私も少し大人になったのかもしれない。

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エッセイは「自分の思いを誰かに聞いてほしい」という、承認欲求強めの人が書くものかもしれない。所詮は、自己満足かもしれない。有名人でもない知らない人の日記みたいな文章の、何が楽しいねんと思う人も多いかもしれない。

それでも、自己満足でもいいから、私はこれからも書き続けたい。私がつらつらと書いた文章で笑ってくれる人がいるし、「わかります」とか「自分だけじゃないと思えました」と言ってくれる人が、少なからずいることを、私は知っている。顔も知らない誰かにそう言ってもらえる嬉しさも、私は知っている。

何より、私は書くことが好きだ。だから、細くてもいいから、長く続けたい。
こんな素敵なことに出会えた失恋に、私はやっぱり「ありがとう」と言いたい。