職場に独身は私1人。自分の心を守るため、彼女達から離れることにした
社員15名の小さなオフィスで私は正社員として働いている。20代後半から50代前半までの年齢も経歴も異なる男女がそこにはいるが、35歳の私以外彼らにはたった一つだけ共通点がある。それは「結婚している」ということ。つまりここで独身なのは私ただ1人。
5年間働いてきてずっとそうだったか、というとそうではない。その間、私のような独り身は1人、2人、3人。多い時で4人いたが全員退職してしまった。誰も口に出して言うことはなかったが、他の4人も私と同じで居心地が悪かったに違いない。仕事は楽しくても、自分以外全員が既婚者というのはいささか働きずらさを伴う。
毎日仲の良い既婚女性達が集まり、朝から井戸端会議が始まる。遠くにいても下品な笑い声と話し声が聞こえてくる。「休みは何をしていた?」から始まり、夕方が近づくと「夜ご飯なににする?」とお局が各家庭の食卓事情を調査し、晩ご飯のおかずを考え始める。1人が年末年始に泊まりがけの旅行に行くと言えば、こぞって他の人達は競い合うかのように宿を探し始める。仕事中でも、隙あらばいつの間にか輪になってそんな会話が繰り広げられる。私は住む世界が違いすぎて会話についていけない。誰かの子どもがトラブルを起こして学校から電話があると彼女達は全員集合して対応策を話し合う。彼女達がそうしている間、私は黙々と放り投げられた仕事をする。
それに子どもが熱を出したりして早退したなら、やはりピンチヒッターはほとんど休んだ事のない私。上司は「子育て大変だね」と言うだけ。独身って損だなと思う。
ある日、彼女達から元同僚の独身者達に向けられた言葉が聞こえてきた。「あの人変わっていたよね」「あの子考え方がメルヘンだったよね」そして口を揃えて「だから結婚できないんだよ」と続けた。
当時は別の他人が言われている言葉でもひどく傷ついた。私みたいに自ら選択して独身の者もいるのに。私は誰かに左右されるような不自由な人生は送りたくない。自分のしたい事があっても配偶者や子どもがいたら多少なりとも反応を気にする。躊躇してしまう自分がいるはずだ。自分の衣食住を賄い、お世話をするだけで精一杯。夫や子どもの面倒なんてみていられないしみたくもない。私は好きな時に好きなことがしたい。たとえ、孤独や責任が伴うとしても。
自分の心を守るために、彼女達から離れることにした。極力顔を合わさなくて済むように出勤時間ギリギリにオフィスに入る。定時で仕事を終わらせてすぐに帰る。一緒のトイレを使うのも嫌だから、多少距離はあるが会社がある建物を離れて歩いて5分位の場所まで行く。
お昼も顔を合わさずに済むようにオフィスの外で昼食を取るようになった。持ってきた弁当について、それを勝手に覗き込まれてとやかく言われる事もないし、見られることを想定して何を持っていくか悩む煩わしさからも解放された。
昼食を取ったあと、私は本を読む。1日最低30分。5日で2時間半。その間、彼女達は相変わらず一緒に昼食を食べ、仕事の愚痴やマウントの取り合いをしているはずだ。比べることは無意味かもしれないが私の昼休みは、何て有意義な時間の使い方なのだろう。
私にはささやかな趣味がある。ここ1、2年で同じ楽しみを持つ人に会いに飛行機や新幹線で遠出するようになった。知らない土地で、生まれも育ちも違う人と出会い、話をし色々な生き方があることを知った。世界は広い。私は私でいいんだってようやく思えるようになった。そして今の自分の生き方も好きになった。
今日もきっと彼女達の井戸端会議を見ることから1日が始まる。でもそれでいい。
もう小さな世界で生きる私ではないのだから。

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