私は両親と約9000km離れて暮らしている。2018年に国際結婚をし、2019年秋に夫の母国であるイギリスに移住したからだ。日本に行くには、飛行機で直行便を使ったとしても約12時間はかかってしまい、簡単に会いに行ける距離ではない。

2020年2月には、渡英後初めての一時帰国をする予定であったが、コロナウイルスがそのころ日本でちょうど市井の感染が始まったところであり、感染の恐れと、万が一イギリスに帰国できなかったときの代償があまりにも大きいと判断したため、泣く泣くキャンセルをした。今のところ、次に両親に会う予定は具体的に立てられていない。一日でも早く大好きな両親の顔を直接見たいが、コロナウイルスの感染拡大は収まる気配がなく、今後どうなるかは全く見通しが立たない。でも、次に両親に会ったら、一緒に過ごす時間を大切にし、感謝の気持ちを伝えたいと思っている。

両親から離れて暮らしてみると、より一層両親への感謝の念が強まった

私は、イギリス移住前に日本にいたときは、一人暮らしをしたことがなく、25年間両親と一緒に暮らしてきた。イギリス移住が、実家を初めて出た機会だった。今思えば、一人暮らしの経験がなく外国へ移住するなど、いくら夫の母国とはいえ、無謀な挑戦だったと思うが、当時は移住という目標に一生懸命だった。日本にいたときから、両親とは仲が良く、大切に思ってきたつもりだったが、実家を出て両親から離れて暮らしてみると、より一層両親への感謝の念が強まった。

まず、料理、洗濯、掃除などの家事全般は生きることに直結する。実家にいたときから家事はできるかぎり手伝ってきたつもりだったが、それでも多くを両親に頼ってしまっていたことに気が付いた。料理も栄養バランスを考えなければいけないし、洗濯や掃除はしなければたまる一方である。滞りなく生活が遅れていたのも、こういったことを両親が私のためにしてくれていたのだと痛感した。

小さなころの経験は自分を形作る大切な要素になっている

また、両親のもとを離れてから、これまでの人生をよく思い出すようになった。特に、子どものころのことを思い出している。両親は、私が小さいころから、旅行にたくさん連れていってくれたり、様々な習い事をさせてくれたりした。当時は一つ一つを楽しむことで終わっていたが、今思い返すと、私に多くのことを経験させてあげたい、という両親の優しさだったのだと思う。小さなころに経験したことは不思議と、趣味が旅行であったり、様々なことに興味を持つ性格だったりと、今でも自分を形作る大切な要素になっている。また、中学生や高校生のころは、勉強でわからないところがあれば、どんなに夜遅くになっても質問に答えてくれた。特に苦手だった数学は、父が一緒に解法を粘り強く考えてくれた。さらに、学校でイヤなことがあれば、隠していたつもりでも両親にはそれがお見通しだったようで、「何かあったの?いつでも聞くから、話したくなったら話してね」と優しく言ってくれた。そのときは、自分のモヤモヤした気持ちを話すだけで、気持ちが軽くなったのを覚えている。それらはすべて、両親の優しさであり、私を心から大切にしてくれていたのだということを強く感じた。

次に両親に会えるときが来たら、これまでの感謝を心から伝えたい

両親の優しさに思いを馳せるとき、コロナウイルスの感染拡大のような非常事態が起こり、両親に次いつ会えるのかわからないなどということになるのならば、いっそ移住なんてしなければ良かったのではないか、と後悔にも似た気持ちになることがある。それでも、移住は自分で決めたこと。両親も娘が遠く離れて暮らすというつらい現実を受け入れてくれていることに、きちんと向き合い、感謝しなければならないと思っている。

イギリスでは、3月23日に首相からロックダウンの宣言が出され、現在でも条件は緩むことなく続いている。このような状況のなか、両親とは週に二回のラインでの連絡と、スカイプを利用したテレビ電話でコミュニケーションを取っている。5月は母の日と母の誕生日、そして両親の結婚記念日と、私の家族にとってイベントが盛りだくさんある月のため、先日、手紙とプレゼントを送った。手紙には、感謝の気持ちをしたためた。それを受け取るとき、両親がどんな顔をしてくれるのかを想像している。しかし、どれだけ手紙やプレゼントを送っても、やはり直接会うことにはかなわないだろう。まずは、それまで健康に過ごし、次に両親に会えるときが来たら、一緒に過ごせる時間を大切にし、これまでの感謝を心から伝えたいと思っている。