私は大学進学を機に実家を離れ、約10年間親元を離れて一人暮らしをした。
実家にいた時は、料理が趣味の母が毎日栄養たっぷりのおいしいご飯を作ってくれていたが、母が料理好きなためか、私はたまに手伝いをするくらいで、ほとんど料理を作ることはなかった。
一人暮らしをすれば料理をするようになるかと思っていたが、学生時代は勉強、アルバイト、遊びに忙しく、社会人になると残業で帰宅が遅くなることが多く、母のような手の込んだ料理なんて全くしなかった。その結果、大好きな納豆ご飯か、さっと炒めるだけの簡単なもの、母が作って冷凍して送ってくれるおかずばかりを食べて過ごした。
そんな私に母は「ようちゃんは忙しいけんしょうがなかよ。好きな人のためやったらちゃんとご飯作るごとなるよ」と口癖のようにいつも言っていた。「そうかね~?」と半信半疑の私にいつも母は笑いかけてくれた。
あの私が、好きな人のためにご飯を作っているなんて、なんだか不思議
私の料理の腕があがることのないまま10年が経ち、私は結婚することになった。
新居から通勤が不可能なため、寿退社し、専業主婦になってしまった。専業主婦だから家のことはきちんとやらなくてはという思いよりは、時間を持て余した結果、家事を真剣にやるようになった。毎日の献立に頭を抱え、スマホでレシピを見ながら、時間をかけて、一生懸命晩御飯を作った。
専業主婦だから当たり前なのかもしれないが、納豆ご飯ばかり食べていた私がこんなに料理をするなんて。母が言っていた通り、好きな人のためにちゃんとご飯を作っている自分を不思議に思った。
私って、意外と料理できる?料理上手な母とのつながりを感じた
レシピが素晴らしいこともあるが、私が作る料理はまあまあの出来だった。あまり努力していないのに、やってみたらできた。料理上手な母の遺伝子のおかげだと思った。また、献立に悩んだ時、私は母が何を作っていたかをいつも思い返した。カレーにはゆで卵のサラダ、グラタンにははんぺんのフライとサラダ、お弁当にはピーマンとウィンナー炒め、巾着卵、コーンのフライなど。結婚して、料理を作って食べる時、私は母とのつながりをこれまでより一層感じた。
母の作るご飯が私を育ててくれたように、今度は私が家族のために
母の言う、好きな人のためだったらご飯を作れるということは、食べることが生きることに直結しているからであると思う。意識しなくても、おいしいご飯を食べて、元気でいてほしいという思いのもと、私は主人にご飯を作っているのだと思う。そして、私は母の料理によってこれまで生かされてきたのである。次は私が家族を生かしていく番なのだ。
結婚して半年が経とうとしているが、主人がだいぶ太ってしまった。ご飯をもりもり食べるからだ。母にこのことを電話で話すと、「うちのお父さんもそうやったよ~。お母さんが10kgぐらい肥えさせたとよ~。」となんだか喜んでいた。主人は「母娘で人を太らせる天才やなあ。」と言う。必要のないところまで母の遺伝子を受け継いでいるようだ。
明日から少しヘルシーなご飯を作ろう。