「独立したいんだよね~」。出会う男性は決まって、こう誘ってきた

(あーまたね。この人も起業したいのね。はいはい)
なぜだかわからないが、出会う男性は決まって、「独立したいんだよね~」を私の誘い文句に使ってきた。私その気があるってこれっぽっちも話したことないんですけど。それか私がそういう人に憧れるとでも思ってるんですか。だとしたら私とはご縁がないので、まずは企業研究からやり直しましょう。

そもそもだが以前の私は起業に関してかなり偏見があった。組織でやっていけない残念な人間が妄想するサクセスストーリーのような感じがどうもついていけなかったのである。そんな私が家庭教師事業を営む個人事業主として起業した。それも学生の身分で。経営者を目指す人の話を聞いてたら私がなっていたのだから驚きである。

パワハラ塾長に教えを請うてみると…。返ってきたのは意外な答え

事の始まりは大学入学を機に始めた塾講師のアルバイト。そこそこ頭の良かった私は、筆記試験と簡単な面接であっという間に採用された。全教科教えられます、教えることには自信ありますと意気揚々だった。しかし、そこがとんでもないブラック塾。私のやっていることの全否定、子供たちの前で大声の説教、そしてついには仕事を与えてもらえなくなったのだ。たかだかアルバイトだし普通ならその時点でやめてるだろう。しかし私はやめなかった。だって人生はじめての仕事で、それが普通だと思っていたのだから……。ここで私は行動に出た。なんとあのパワハラ塾長に教えを請うたのだ。そしたら意外な答えが返ってきた。「生徒の観察してる?」。眼から鱗だった。私は自分の能力不足だと思い、必死に数学やら英語やらの勉強をしていた。しかし、そうではなかった。コミュニケーションの問題だったのである。

そこから私は徹底的に生徒の勉強をした。挨拶をして、声をかけて、ご家庭に電話をかけた。生徒と保護者からの信頼を得られるようになると、面白い具合に合格実績も生まれた。生徒だけじゃない。同僚や後輩の相談にも乗るようになり、自身のスタイルを確立。こうして私は塾での居場所を作り出したのである。

そんなことを行きつけのマッサージ店で話した。そしたらなんと「息子の家庭教師やりませんか?」と声がかかった。手探りではあったが塾講師の経験を生かし評判は上々。口コミで順調に顧客数を伸ばし事業を立ち上げるに至った。

人の役に立ちたいっていう思いがあり、その手段として仕事がある

ここで冒頭に戻ってみよう。あの起業男たちは具体的な事業内容を描いていただろうか。答えは否だ。起業したい理由なんて、お金を独り占めしたいか、トップに立ちたい人ばかりだったのである。私の偏見はこういう人たちによって出来上がってしまったものだった。人の役に立ちたいっていう思いがあり、その手段として仕事がある。その本当の意味を事業を立ち上げてはじめて知った。もしかしたら起業とはしたいと思ってするものではなく、気がついたらしているものなのかもしれない。ノーベル賞だって受賞をめざしている人が取れるわけではないのだから。研究に従事するものとして、もう一度原点に立ち返ろう、論文の数を競うのではなく人々の役に立つ研究をしよう、そう強く思った。

ここまでの努力と経験を、そして深い思考に至れた私を誰か褒めてほしい。そんなことを思いながら今日も就職活動を続けている。