「ライトノベルファンです」とは全く言えないし、大声では恥ずかしい

私には17年間追いかけている作家さんがいる。彼の名前は西尾維新。今ではライトノベル作家として広く知られている。ドラマ化・アニメ化・漫画化の原作者として、小説を読んだことはないが名前は聞いたことがある、本屋さんでポスターや新刊を見たことがあるという人も多いのではないだろうか。

しかし私は「ライトノベルファンです」とは全く言えない(他の作家のライトノベルは現状1冊も持っていない)。また、「ライトノベルが好きです」と大声で言うのは、ちょっと恥ずかしいみたいな感覚が私の中にあることを、否定できない。電車の中で読む時は、カバーを外さないと落ち着かなかったりする(本当は布教したいのに)。しかし事実、西尾維新作品のファン歴は長いし、私の人格の何%かは間違いなく、彼の作品群から形成されている。

私が小学生の頃、市立図書館で西尾維新のデビュー作「クビキリサイクル」を見つけてきたのは、私ではなく母だった。その1冊が人生に寄り添う作家との出会いとなった。ちなみに母も私も当時は「ライトノベル」という言葉すら知らなかった。

夢中で読み漁った小学生時代から28歳の今まで、ずっと色褪せない

初対面の印象としては、とにかく本が分厚い。あと、中身が二段組になってて、なんかオシャレ。私は小学生の語学知識を総動員して、夢中で読み漁った。西尾維新はとにかく執筆スピードが豪速で、存在を忘れたことは一度もなかった。

沼に引きずり込んだ彼氏や友人も何人かいる。「クビキリサイクル」の主人公と同じく京都の大学生になったときや、作者がデビューした20歳の年になったときは、とても感慨深かった。そして今では西尾維新は36歳、私は28歳。彼の作品群は物理的に色褪せても尚、本棚の良い位置にずらっと鎮座している。

ライトノベルを読んだことのない人にとって、ライトノベルはどんなイメージなのだろうか。「この後俺はどうなってしまうんだ~~!?!?!?!?」とか、「この腐りきった世界を俺が浄化してやるぜッ!!開眼ッ!!!!!!」とか?ファンタジー一辺倒の「軽い読み物」、それがTHEラノベとしての一般的な印象なのかもしれない。

ライトノベルの独自性は、素早く作品の世界観の引きずり込む仕掛け

しかし、一番の特色はそこではない。私が思うライトノベルの独自性は、そもそも読書体験に親しみのない層をも素早く世界観に引きずり込む仕掛けが、各作品で用いられていること。これに尽きる。だからこそ、ライトノベルにおいては得意テーマが「特殊能力バトル」だったり、今流行りの「異世界転生」だったりするのではないだろうか。

西尾維新の打つ仕掛けで私が最も効果的、かつ魅力的だと思うところは、文章のエッセイっぽさだ。地の文章の中で、主人公の内面が滲み出している面積の比率が高い。そこがファンとしては堪らない。

語り手を担う主人公は、個性豊かなキャラクターの中でも一番やべェ奴であることが多い。それなのに、状況の説明はほとんどその主人公のフィルターを通して語られていて、読み手に没入感を与える。結果、読み手はやべェ主人公と同じ目線で、個性豊かなキャラクターを認識していくことになる(そして容赦なく人気キャラが死んでいく。合掌)。

ライトと言われないノベルスには描き辛いような、現実から外れた設定やキャラクターのことも、作者に作り込まれた世界の中なら、自然にのびのびと描くことが出来る。それを「軽い」と称するのは、あまりにも傲慢だ。企業努力と消費者のニーズが合致して育ってきた、系統であり技術なのだから。

優劣を押し付けるかの様に。「ライト」というラベリングのせいで

本好きの中でも「ライトノベル議論」は答えの出ない不毛なものだと言われがちだが、本のジャンルの線引きは元々困難なものであるし、まるで優劣を押し付けるかの様に「ライト」って言い出した人の業は深いよなぁ。そのラベリングのせいで、なんだか人様にお勧めし辛いんですよね……。「私の人格の何%かは、間違いなく西尾維新の作品群から形成されている」、それは間違いないし、ここだから大声で胸を張って言えるんだけど、余所では中々。

とはいえ、私は定期的に西尾維新を(小声で)人に勧めるし、読書家と出会えばラノベ議論もせずにはいられない。だって、好きだから。ここまで話しておいてなんだが、西尾維新に関しても「西尾維新はライトノベル作家か否か」という議論が定期的にネットで白熱している(ミステリー作家だと呼ぶ風潮がある)。

先日旦那にラノベ議論を吹っ掛けたら、彼は「じゃあ伊坂幸太郎の作品もライトノベルに近い位置にあるんじゃないの?」と言い出した。確かに、SF味があったり、特殊能力ありの世界観に引きずり込む仕掛けが打たれている点、一考の余地はありそうである。
ならば三浦しをんは?彼女の作品は、物語であってもエッセイの様な親近感を感じさせる温かい文体が魅力だ(しをん先生はBLの素養もあるし)。きっと、ジャンルの垣根なんて、そんなものだ。良い意味で。

だから私も皆さんと一緒に語りたい。ライトノベルの「ライト」とは何なのか。ラノベ未読の方は、ぜひ彼のデビュー作、「クビキリサイクル」から、どうぞ。