いわゆる「男顔」だ。
朝起きて鏡を見ると、もともと腫れぼったい瞼の脂肪が、たっぷりと眼球を覆っている。頬骨は高く、目尻と交差する方向に突き出ている。鼻は日本人にしては高く、若干の脂肪が先端に丸みを持たせてしまい、存在感があり過ぎる。おでこは定規で測ったら縦に10㎝もないであろう幅で、眉毛は厚い瞼のせいで、目との距離がだいぶ遠く見えてしまう。おまけに脂性乾燥肌で、肌荒れが全くない時期なんて人生で一度も知らない。髪は10回ブリーチしてもセットがすぐ元通りになってしまう程の剛毛。前髪をつくれば下に落ちず文字通り前方にピンと伸びる。

なぜなのか。なぜ。なぜ。なぜ私だけ??他の子は難なく手に入れている女性らしい顔つきや髪型が、なぜ手を尽くしてもすべて空振りするのだろう。もう25歳になるが、朝起きてなぞる視線の軌跡は未だに変わっていない。

彼は繰り返し私の容姿を褒めてくれたけれど

精一杯「普通の年相応の女の子」を目指してみた。そしたら彼氏ができた。彼は最初から何度も繰り返し私の容姿を褒めてくれた。「本当に綺麗」「完璧です」「あなたは魅力的です」
付き合いが長くなるにつれ、誉め言葉はその積み重ねも相まって、威力を増したシャワーのように私に降りかかってきた。「どんどん綺麗になる」「化粧してない方が好きや」「目がキラキラしてて映画の○○みたいや」
この辺でもう、限界が来たのかもしれない。

それまで黒染めした前髪ありのボブを内巻きワンカール、綺麗めの露出少なめ、いっしょにいる相手になるべく違和感を与えないような身だしなみを目指して日々頑張っていた。彼氏と会う頻度も高く、週三回以上が通常運転の時もあった。それをサッパリと止めた。

ブリーチして、刈り上げて、前髪もなくした

髪を再びハイブリーチし直してもらった。サイドとバックは刈り上げを1ミリで、できるだけ広範囲に入れてもらった。前髪はなくして、頬骨がギリギリ隠れる位置で全方向の長さを揃える。ストレートの白金を目頭のあたりでシンプルに分けた。
似合いますね~。いつもの美容師のお兄さんが、切り終えて言った。だいぶ印象変わりますね。そうですね。そんなやりとりを終えてスッキリして帰路につく。ショーウィンドウに映る自分は、首から上と、首から下があまりにもチグハグで、明らかに違和感があった。

帰宅してクローゼットとタンスの服をくまなく合わせてみた。あんなにしっくり来ていたのに、なにも似合わない。似合わないというか、綺麗めで揃えたはずの服が、急に鋭利な印象を発揮し始めていた。この頭じゃ当たり前か、と痛快に思いつつ、彼氏の視線のことを思うと胃が軋むような思いだった。

「首から上は男で、首から下は女だ、気持ち悪い」自分に投げかけてしまった言葉

これで振られる、と思ったのに、全くそんなことはなく数か月が過ぎた。逆に私の方が気にし過ぎてしまっているように思われた。彼は髪型をむしろ面白がってくれていたし、文句を言われることもなかった。

それなのに、たとえばお風呂上りに裸の自分を見て、自分の視線に苦しむようになっていた。確かに似合っているのだ。私の顔にはベリーショートが、限界に近いくらい短い刈り上げが、尖った雰囲気が、この顔には。SNSに写真を載せたら、知り合いや、知り合いじゃない人から、モデルをしてほしいとDMが来たりした。たくさんいいね!が来た。久しぶりに会う人みんなに褒めてもらえた。すごく似合ってる、綺麗、かっこいい…でも鏡で一人で自分の姿を見た時私は、自分がキメラのような生き物に見えて苦しかった。

「首から上は男で、首から下は女だ、気持ち悪い」私は私の視線で私のからだを毎日批評するようになり、彼氏とのキスやセックスを含むスキンシップ、さらには彼と視線を合わせることさえ、あからさまに避けるようになってしまった。彼が傷ついてるのはわかっていたが、私は意固地に保守的だった。次第に彼の心は離れた。その頃にはもう、彼が私の容姿を褒めることはまったくなくなっていた。

自分の視線で自分を迷走させていたこと

自分の「女らしさ」を志向した背伸びを褒められ過ぎて、苦しくなって棄てたのに、結果的にチグハグになってしまったという自分へのマイナスな視線が、彼との関係まで影響を及ぼしてしまった。人からの視線は、自分が思っているよりずっと優しく、私の「今の姿」をどれも肯定してくれるもの、だったのに。自分の視線で自分を迷走させ、独りよがりに気持ちを落としてしまっていた。彼に交際の終盤、よく言われた。被害妄想が過ぎるって。
もっとその時の今を、自分の選んだ姿を、からだを、真っ直ぐに見つめられるようになれたらと思う。