私の身長は153センチで背が低い。おまけに童顔ということもあって、よく高校生に間違われる。社会人になった今もだ。

アラサーで高校生に間違われると、地味にショックだったりする

満員電車に乗ると、流されやすくて人に埋もれてしまう。天井を探そうとすると、みんなの頭で覆われて見えないこともしばしば。つり革に手が届かないこともある。ドア付近のつり革なんて絶対無理だ。何であんな高いんだ(笑)
「小さいね」とよく言われる。そうかなあ。自分ではそんなに思わないけど。160センチと153センチじゃ、やっぱりだいぶ違うのかなあ。ちんちくりんなのかなあ。アラサーで高校生に間違われると、地味にショックだったりする。自分に対するみんなの視線がちょっと気になった。
 そんな私だが、大学生のときに低身長を生かしたバイトをしたことがある。それは着ぐるみのバイト! 募集条件は155センチ以下の方。それを見た瞬間、携帯を持つ手が震えたのを覚えている。ついにこの、低身長を生かすときがきた。そうだ、これは低身長の特権だ。わくわく楽しいことが大好きな私は大興奮ですぐに応募した。
 事前説明会では、着ぐるみのバイトがいかに体力仕事か、熱中症を懸念して着ぐるみでの活動は最大でも15分ということが伝えられた。うむ、思ったより過酷かもしれぬ。でも、私はノリノリだった。持ち物は長めのタオルと水泳キャップだそうだ。ふむふむと熱心にメモを取った。

着ぐるみバイトの当日。ドクンドクン。にやにやしまくっていた

そして迎えた当日。前の人が休憩室で着ぐるみを脱ぎ、周りの人が大きなうちわで汗だくになったその人をあおいでいた。ドクンドクン――。胸が高鳴る。いよいよ私の番。
「はい、じゃあ次の人、準備お願いしまーす」
 スタッフの声がかかり、私はせわせわと準備に取り掛かった。まずはズボン。だぼだぼの大きなズボンに足を通す。そして靴。大きなムートンブーツのような靴を装着する。手にはこれまた大きな手袋をつけて。水泳キャップをかぶり首にタオルを巻いて……。
「じゃあ、最後、頭かぶせまーす」
頭が大きいキャラクターということもあって、周りの人が頭をかぶせてくれる。するとズシッと頭と肩に重さがきて、視界が真っ暗になった。キャラクターの目の穴から覗き込んで状況を把握することとなる。
「はい、では移動しまーす」
視界が狭くなった私は補助の人に手を引っ張ってもらって会場へと移動する。

「わあ、○○だあ」
子どもたちの声が聞こえた。ざわざわとたくさんの人の声が聞こえる。
どうやらお客さんたちの前まで来たみたいだ。
「かわいい」
子どもたちが近づいてくる。
よし、と私は気合いを入れて、腰を振りノリノリで踊ってみせた。
きゃっきゃという笑い声が聞こえて、子どもたちが喜んでいるのが分かる。
ドンっと衝撃がきて子どもたちが着ぐるみに抱きついてくるのを感じる。
ふふふ。私は着ぐるみの中で顔が見られないことをいいことに、にやにやしまくっていた。

いつもの低身長も違和感なく着ぐるみと一体化。あっという間の15分

みんなの視線を感じる。でも今はちんちくりんの私ではない。キャラクター〇〇だ。当たり前だが、普段の自分に対する視線と全然違う。着ぐるみを着て、すっかりキャラクターになりきっている。ふっくらしたおなか。もこもこした大きな手。いつもの低身長も違和感なく着ぐるみと一体化している。
承認欲求が満たされた私ははしゃぎまくった。着ぐるみを着て一時的に性格も変わっていたのかもしれない。必死に目の穴から覗き込んで、自分から通行人にちょっかいをかけに行っていた。着ぐるみに迫ってこられて嫌な顔をする人は少ない(笑)
 それから、いろんな人と握手やハグをして、子どもたちと記念撮影に応じたことも、ちょっとふざけた大人たちに頭をぽこぽこ叩かれたりしたこともあったけれど、どれもが自分にとって新鮮だった。いつもと違うキャラクター○○として歩く世界。みんなが笑顔になるのが嬉しかった。あっという間のキラキラした15分間だった。

「お疲れさまでしたー」
着ぐるみの頭を取ってもらうと、私の髪の毛はビジョビジョだった。水泳キャップまで汗が滴り落ちていたけれど、私の心は満たされていた。
「どうだった?」と周りの人に訊かれて「めっちゃ楽しすぎましたー!」と即答した私であった。