なにやら父にネトウヨ(ネット右翼)の兆しが見える…気付いたのは一昨年の冬のことだった。
私の父親の場合、韓国や中国がとにかく気に入らないらしい。YouTube動画を鵜呑みにしては「在日朝鮮人が日本を侵略している」「〇〇議員は中国のスパイだ」という陰謀論を展開。偏った差別発言は、音楽や食べ物など文化的なものを否定することにまで及ぶ。
実は父の寝室のクローゼットには、あらゆる韓流ドラマのDVDがぎっしり詰まってる。昔の父は、冬のソナタから始まったヨン様ブームをなぎ倒す勢いで韓流ファンの1人だったのだ。
悲しいかな、今ではそんな事実なかったとばかり。テレビでKーPOP歌手が映ると即座にチャンネルを変えて「朝鮮人なんてけしからん」と言う変貌ぶり。
とうとう父が、キムチにまでケチつけてくるようになった
私は父がかわいそうに思えた。人生の折り返し地点にきた孤独な中年男が、根拠が分からない情報を信じ込み、「正義感」を振りかざしてる。
そんな哀れみも、きっかけがあれば消えてしまう儚いものだ。
わが家では朝食にキムチを出す習慣がある。腸内環境が整うし、なにより美味しいから家族全員キムチが大好き!…のはずが、とうとう父がキムチにまでケチつけてくるようになった。
「このキムチは韓国産か?韓国人の作るものなんか食卓に並べるな」。どうやらまた動画で余計な情報をインプットしてしまったようだ。
しかし家で定番化しているこのキムチは特別なものだった。私が1人飲みで通う韓国居酒屋のママが作ってくれたものだ。ユミちゃん(源氏名)ママは韓国出身で、日本で小さなお店を切り盛りしている。
私はいつもカウンターに腰かける。特別なことは喋らず黙々と食べて飲んでるだけで、母親に甘えてるような安心感をおぼえる。そうしてユミちゃんは必ず帰り際にお手製キムチを持たせてくれるのだけど、なかでもネギキムチは鼻息が荒くなるほど美味しい!
好きなものや人を否定された私は、腰を据えて戦うことにした
好きなものや人を頭ごなしに否定された私は、ようやく腰を据えて父と戦うことにした。"キムチの乱"開戦である。
口論だと平行線になるのは分かってる。素っ頓狂だけど自分でキムチを作ることにした。それでもって父の寝首をかいてやる!
戦いの火蓋は切られた。私はユミちゃんに頼み込んでキムチの作り方を教わった。材料は敢えて国産で揃える。唐辛子はやっぱり韓国産の辛みの弱いものが向いてるけど、彼女の経験と機転で国産唐辛子を使っても美味しいキムチが作れるようになった。
決戦の朝、何食わぬ顔でキムチを並べた。「私が国産の材料で作ったキムチだから食べてみてよ」
私は心の中で、在日韓国人とキムチの名誉を取り戻した
渋々といった表情でキムチを食べた父は「これは旨いな、朝鮮人も顔負けだよ」と顔を綻ばせた。
私はニヤリと笑う。「そうでしょう?いつもキムチをくれる"韓国人の"ユミちゃんに教わって作ったの。本場の味に近いよね~」
途端に父がぐぬぬぅっと顔を歪めたが、何も言い返せない様子。横で弟が「ほんとだ!おいしい!」と箸をすすめている。
ふふふ、勝った。勝ちましたよ。
私は心の中で在日韓国人とキムチの名誉を取り戻した。
腹の虫がおさまっても、父のネトウヨ活動に終止符が打たれたわけじゃない。現在も彼は斜め上からの視点でいきいきと愛国主義を掲げている。
家族を継続するには、ときに反乱を起こすのも必要かもしれない。なんのフォローにもならないけど父は笑った顔がくしゃっと可愛い、私にとっては愛すべきおっさんだ。
さあ、そろそろ白菜が旬だ。キムチでも作ろうか!