恋人はサンタクロースなんて音楽が流れてきそうなタイトルから始めてしまったが、実際はそんなにロマンチックなものではない。

半年前までまだ一緒にいた恋人は自然消滅の後、現在刑務所でお世話になっていると風の噂で聞いた。そんな場所で生活する彼も彼なら、私も私なのかもしれない。

何の目標もなくだらだらする生活に嫌気がさして家を飛び出したのがお盆に入る前のこと。
過保護すぎる両親には暑い暑い南の島に着いてから「2週間ほど家を出ます」と、連絡を入れた。

環境が変われば世界が変わるのではないか。
そんな安易な考えで飛び出した私が目にしたものは、今までと全く違う世界だった。
都会育ちの私にとっては、風が強いだとか、海が見えるだとか、それだけで感動するには十分だった。
週に3日だけのアルバイトが休みの日には、船で近くの島まで行ったり、少し遠出して星を見に行ったり。
島の人達は皆親切で、初対面の私に対してもまるで自分の娘であるかのように温かく接してくれた。単純に楽しかった。

結婚間近の彼との破局を機に仕事を辞めた

壁と言われる3年目も難なくクリアし、結婚間近の彼との交際も順調で、お手本のような人生を歩んでいた私は彼との破局を機に仕事を辞めた。

お手本通りにいきすぎていたのかもしれない。
"みんなと一緒"の"ふつう"のラインから急に外れた私は、道標の無くなった闇をひたすら歩き続けた。

住む場所を変えただけで、私の心に大きな風が

たかだか住む場所を何日か変えただけ。その変えただけが私の心に大きな風を吹き込んだ。
なんとなくこのまま帰ってはいけない気がした私は家には帰らず、南の島での生活を終えたその足で高校時代の友人の元へ向かった。

一緒にご飯を食べて、隣に布団を並べて眠る直前までたわいもない話で盛り上がった。
その後一度家へ戻った後、南の島で偶然仲良くなった仲間達からの誘いを受け、名前も聞いたこのない街へ足を運んだ。

そこで芸術家として活躍するで彼らと1ヶ月過ごした。粘土を練ってみたり、機械の組み立てをしてみたり、絵画のモデルになってみたり。非日常的すぎる日常を過ごした。

次に向かったのは、外国人を受け入れるゲストハウス兼飲食店での住み込みのアルバイトだった。英語を全く話すことが出来ない私にとっては、英語を学ぶことはもちろん、日本以外の文化に初めて直接的に触れ、それらを理解することに毎日頭をフル回転させながら働いた。

そうこうしているうちに、気づけばあっという間に世界はクリスマスモード一色だ。

ドミトリーで過ごす刺激的な毎日が、とても幸せ

私は、同世代の子達がインスタに嬉々とアップするような素敵な旦那様も、食べちゃいたいぐらいに可愛い子どももブランドものバッグも何も持っていない。
更に加えて定職もなければお金もない。
定まって帰る家までもないときた。それでも他人の匂いのする枕で眠りにつく瞬間、ドミトリー特有の硬いベッドの上で過ごすこの刺激的な毎日が、とても幸せだ。

そしてまた私は、夏よりもグンと逞しくなった左手でキャリーケースを引きながら次の住処へと向かうのだろう。